私のオオカミくん 第4巻【完】

著:野切耀子 先生

こむぎの記憶から、彼らが人の姿を
した獣であること、これまで彼らと
関わった日々の全てが消え去った。

ただぼんやり残って消えない違和感。
それに、関わりなどないと思っている
大神くんからはよく視線を感じる…。

何もなかったままではきっと終わら
ない。だって事実あったのだ、それも
大神くん達にはちゃんと記憶がある。
出来るなら思い出してほしいよね…。

センセイは言っていた。今こむぎ
には二重に催眠がかけてある状態で
こう何度も重ねることになれば心身
の安全は保証しかねると言っていた。
もう、ほぼ脅しだよね。今後一切
こむぎに関わろうとするなっていう。

「俺が全部覚えてるから。」

いい…なんて思ってる顔してない。
ずっとこむぎを目で追う大神くん。

(あのメモ破り捨てたこと、後悔
してない。そんなふうに思えたのは
いつからだっけ、私、なんでこんな
に前向きになれたんだっけ--?)

大神くんに関する記憶はない。
それでも彼の言葉で変わった
こむぎの思いはそのままだった。

きっと…きっと思い出す。
思い出す日が来るよね!?

「最近なんか、視線を感じる…。」

その正体は勿論大神くん。
こむぎの友達はストーカ-呼ばわり。

「ただ見守ってるだけだし。」

うん、十分ストーカーだよ大神くん。
そんな彼は狼になって見守ることに
作戦を切り替えた様子ですねww

それにしてもほんと…変わったね。
大神くんの諦めの悪さもそうだし、
伏見くんの人…というよりこむぎに
対する考え方と言うか行動も…ね。

きっと全部、こむぎが変えたんだ。

オオカミ姿の大神くんは、そのうち
こむぎにしっかり見つかってしまう。

でも、そのオオカミを追いかけて
行った先にいたのは木陰で居眠りを
していたオオカミ…ではなく大神くん。

寝ぼけた彼は、こむぎの手を取り
抱きしめた。そして慌てて言い訳。

「っごめん!俺、寝ぼけて…
…その、いい匂いがしてつい。」

聞いたことがある気がするやりとり。
どこか懐かしい気がするやりとり。

オオカミの先にいた大神くん。
こむぎにとっては意図せず彼に
近づいたものだったろうけど…
おかげで、思い出してしまった。

こむぎの記憶も戻り、センセイの
存在は大神くんからも他3人からも
悪者扱い…センセイも覚悟を決めて、
12年前のことを話してくれることに。

大神くんの記憶…センセイは彼には
催眠をかけていないと話した。
きっと、自分で暗示をかけて忘れ
ようとした結果記憶が無いのだと。

母親に捨てられたという話も、事実
はそこまで単純な話ではなかった。

病気で先が長くなくなった母親が、自分
ではもう育てられないからと亡くなった
夫が前に話していたことが、円山にまだ
存在するかもしれないセンセイのような
存在…それを頼ろうと円山へ来たのだ。

当時の幼い大神くんには、母親の死は
許容できるものではなかった…だから
前後の記憶ごと心の奥底に封じ込めた。

センセイがこむぎとの接触をやめ
させようとしたのも、この記憶が
戻ることを止めるためだったようだ。

記憶が戻り、暗い表情を浮かべる
大神くんだけど、対してこむぎは…

「何にすがってでも大神くんの
お母さんは大神くんに生きていて
欲しかったんじゃないかな。」

そう、言ってくれた。こむぎの
存在、こむぎの言葉、それらが、
やっと大神くんに前を向かせた。

…良かった。ほんと良かった。

伏見くんは結局大神くんの気持ちを
最優先に応援する行動を選んだ。
でも、やっぱりこむぎのこと好きに
なっちゃってたんだよね…どちらも
大事、でも彼にとっては大神くんが
何より大事な存在だと思ったから、
こむぎへの気持ちを抑えはじめた。

それでも…やっぱりつらいよね。
きっと初めて大好きになれた人間、
これまで大事にしてきた存在に
とられちゃったんだもんなぁ…。

こんな伏見くんな複雑な思いに
対して、先があると話した千里。

おまえたちには‥って、まるで
自分には先がないような言い方?
この言葉の真意は、番外編にて。

こちらは番外編のお話です。

千里は、伏見くんや淡路くんとも、
大神くんとも違う、元はただの猫。
そんな彼を気まぐれに人に化ける
術を授けたのはセンセイだった。

細身の小さな黒猫、忌み嫌われる
存在だった彼を拾い名付けてくれた
のは寿美という一人の女性だった。

彼女の手助けとなるために人に
化けられるようになった千里は、
最終的には彼女を亡くしてしまう。

もしかしたら、いつしか恋をして
いたのかもしれないね…でも寿美
にはずっと思い人がいて、その彼
も寿美を思い続けていた…亡くなる
寸前にほんの少しの逢瀬を果たせた
のは、千里が行動にでたおかげだ。

でも後に残ったのは寂しさだけ…
センセイがこの力を授けた交換条件
として、命と引換えと言われていた。

でもその意味は命を縮めるという
ことではなく、1人で長く生き続ける
センセイと共に延々と生きていく。
要は道連れにされるということだった。

大切な存在を失ってすぐにでも
終わらせたくなった命は終わらない。
でも、もう彼女には会えないんだ。

絶望的だったろう…それでも、
千里はこれからも生きるしかない。

千里が言っていたおまえたちには
先があるっていうのは、自分には
どう求めても寿美は戻ってこない
から…ということだったのかも。

~ひとこと~

最終巻でした。いかがでしたでしょう?
いろいろと紹介できていない部分も
多いですが、結果的にほんと良かったと
思えるお話でした。番外編で描かれた
千里のお話は、少々つらい部分が多く
感じましたが…それでも心に残るお話
だったと感じます。このお話の良さ
まだまだ紹介しきれていませんので、
もしこのレビューで興味を持って頂け
たなら読んでみてほしいと思います。

それではまた別の作品で!!