著:藤間麗 先生

「有紗陽、おまえに力がないなどと…
誰が言おう。この水神を…私を動か
せるのはおまえだけ。使え、私を。」
水神様がそう言うと、有紗陽は水神
様の力を使い兵達から武器を取り上げ、
怪我をおった少年の怪我を治した。
意識を取り戻した少年の第一声がこれ。
闇の力の影響だとしても狐雅彦が犠牲に
しようとした者の真っ直ぐすぎる想いだ。
それを受けて、狐雅彦は闇に打ち勝った。
これまでの狐雅彦のやり方は褒められた
ものではなかったけれど、いくら神でも
彼のように自分の強い芯を持った者の心を
闇に染めるのは難しいのかもしれないね。

狐雅彦はもう操れない、次の駒に大王
を使おうと黒瀬と常闇は闇に身を隠そう
としたその時、有紗陽は引き止めようと
水神様の力を黒瀬へ向けて放った。
引き止めることは叶わなかったけど、その
時有紗陽と水神様にはあるものが見えた。
大王を守るため、そしてもう1つの目的を
持って水神様・有紗陽・翠葉流は黄泉国へ。
前回入った時に水を残しておいたとかで。
水神様さすがですわ、抜かりないね 笑
闇に飲まれた大王の兄によって大王は首
を絞められ殺されそうになっていたけど、
大王の真っ直ぐな想いと言葉を受け、3人
が来る頃には兄は無事正気を取り戻した。
大王と兄の無事を確認すると、有紗陽
はまっすぐにある方向へ走り出した。
それを見て?を浮かべる黒瀬だったが、
常闇は慌ててそれを追いかけていった。
その理由、そこにいたのは比乃だった。
常闇は比乃のことを黒瀬に思い出され
ては困るから止めたかったんだろうね。
でも黒瀬は思い出した。彼にとって何
より大事だった常闇との約束のことも。
そして、そんな約束が叶うわけのない
ことだったと思い知らされることになる。
この場所にあったそれは、神の力で
辛うじて形を保っていたのかもしれない。
直後それはどろっと溶けて形を亡くした。
これまでずっと、ただ利用されてたのか。

現実を突きつけられた黒瀬は常闇の
大きな闇に覆われていってしまった。
これまでしてしまったことへの後悔も
相まって彼は絶望の淵にいる状態だ。
そんな黒瀬を贄に取り込もうとする。
真っ黒い闇の中で意識を手放しかける
黒瀬の腕をギュッと掴んで、有紗陽は
必死に言葉をかける。このままでは
有紗陽ごと闇に飲み込まれてしまう。
そんな危険な状況でも、有紗陽は
黒瀬を助けようとして逃げなかった。
「放さない!放したら…後悔するもの!」
水神様の力に黒瀬を取り込んだ時、彼の
過去も知ってしまったのかもしれないね。
水神の巫女として彼を助けられなかった。
そんなことにも気付いたのかもしれない。
これまで人生の後悔、白く残ったそれを
苦しいものだと感じてきた黒瀬にとって、
有紗陽のぶつけた言葉はそれこそ希望だ。
もう、これ以上後悔したくないだろう。
過去は変えられない、それでも今希望を
捨てずに戦えば後悔にはならないだろう。
有紗陽みたいに、彼にぶつかってくれる
人がこれまでもいたなら違ったのかな。
そんなことを言っても仕方がないけど、
今有紗陽と出会えて彼は救われたよね。
過去の後悔はもう消せないけど、これ
から後悔をしないようには生きられる。
黒瀬ももう、きっと大丈夫だよね。
これ以上闇に飲まれはしないよね。

その後神様総出で現れると闇の神を封印。
表向きには水の巫女の名の下に封じたと
いうことにしたらしい。一時的に世に流れ
出た闇も神様達によって無事晴らされた。
封印された場所から離れる時、黒瀬は
少し懐かしむような表情で閉ざされた
黄泉国への入口を見て考えていた。
元の世界で階段から突き落とされた直後、
黄泉国にいた、あの状況でもきっと黒瀬の
心の闇は常闇の糧になるものだったろう。
でもそんな彼を常闇は人の世へ戻した。
その時常闇が何を思ったかはわからない
けど、きっとこれまでもずっと孤独な
思いをしてきた常闇にとって、黒瀬へ
向けられたのは情だったんじゃないか。
仲間意識みたいなものがきっとあった。
一緒にいるのが楽しかったんだろう。
手放したくなんてなかったんだろう。
そんな常闇に結果的には裏切られた黒瀬
だったけど、常闇に会えていなければ
今の彼は存在していなかっただろうな。
最終的に黒瀬も、常闇を裏切る形に
なってしまった。これは後悔として
残っても叶えてはいけないことだ。
だからきっとこの選択は間違ってない
けど、それでも残ってしまうんだね。
黒瀬のこれまでの人生は辛いことの方
が多かっただろうけど、そんな中でも
彼には優しく温かい心が芽生えていた。
この世界に来てよかったのかもな。
つらい経験も多かったけど、彼には
必要なことだったのかもしれないね。
「…ごめんな、常闇。」
最後にそう言葉を残し立ち去った。

常闇の力に惑わされていた民達に
大王は責を負わせず不問とした。
そして首謀者である黒瀬に対して、
さすがに不問とは言わなかったが
彼に出されたのは都からの追放。
大王の寛大な判断、きっとこれから
ナガの国はもっと大きくなるだろう。
きっといい国になっていくだろうね。
追放された黒瀬を連れて、有紗陽と
翠葉流は月彦達のいるムラへ戻った。
そこには翠葉流の母親もいるわけで、
昔のことを思い出した様子の黒瀬
だったけど‥もう大丈夫そうだね。
この母親相変わらず過ぎて苦笑い
しか出てこないけれども‥ 苦笑
一先ず一見落着ってところですね。

それからの有紗陽は、湖の中で
水神様と過ごす時間が長くなった。
気持ちの整理をつけて帰らなければ
いけないとわかっていても、一向に
気持ちの整理などつきそうもない。
「あれはわからぬと言ったが、私は
わかった。あれの孤独が。永い時を
独りで過ごす孤独を、おまえに会わな
ければわからなかった感情だ。」
闇の神の孤独、水神様はわかったという。
正しくは、有紗陽に出会ったから知って
しまった感情だ。会う前はそんな感情の
存在すら知らずにいたのかもしれない。
そんなことを言われて、益々彼と
お別れなんて考えられなかったろう。
そうやって水神様と過ごしていたある時、
眠りから目を覚ますと隣で眠る水神様。
これまで眠っていたことなどなかった。
眠る必要などないと言っていた彼が、
声をかけても目を開けてくれない。
力が弱まってきている‥? この時
ようやくそんな可能性に気付いた。
その直後水神様は消えてしまう、
水に溶けてしまったかのように。

水神様はまだ消えてしまったわけでは
なく、他の神様達のもとにいたようだ。
でも状況は決していいものではなかった。
有紗陽が元の世界にいる夢を見ていた時、
有紗陽は水神様に喰らわれていたらしい。
互いが混じり合って神の力が有紗陽の中に
流れ出てしまい、結果力が弱ってしまった。
確かにこれまで、人間ではやり得ない
ことが出来てしまったこともあった。
でもそれが彼の力を削って出来ていた
ことだなんて気付けっこないだろう。
このままでは彼は消えてしまうという。
そうしてまた新しい水神が生まれる‥
それはもうこの水神様とは別の神だ。
「君と彼が完全に一つとなれば、消える
ことはないかもしれない。生贄だ。」
土の神かな?がそう教えてくれる。
それも確かではない、今までこんな
ことはなかったからあくまで可能性。
有紗陽はそれでもいいとすがりつく。
それに対して目を覚ました水神様は
酷く怒った表情を見せ反対してきた。
水神様の気持ちはもちろんわかる。
でも有紗陽の気持ちもわかるんだ。
互いに互いが大切で仕方ないんだ。
自分を犠牲にしてでも相手を守りたい。
そして同じように有紗陽が大切な翠葉流は
水神様に釘を差すように言葉をぶつける。
でもそれに対して水神様が返した言葉は、
あまりにも悲しい言葉だった。
「…そうするよ。」
酷く辛そうな表情を隠すように水神様
に背を向けて、翠葉流はそう答えた。
(ああどうか、神ですらままならぬのに
それでも願う。どうか献身し合うこの
2人が幸せになれば、と-----。)
翠葉流のこんな思いが何かに届けばいい。
神頼みなんて何の意味もなさないんだな。
だって神様ですら何も出来ない状況だ。
悲しすぎる、こんなの悲しすぎるよ。
神でも仏でもなんでもいいから、この
願いが届いて叶ってくれたらいいのに。
~ひとこと~
その後は水神様の身体を労りながらの生活、
有紗陽に神の力が流れたように、水神様にも
人のような感覚がわかるようになっていた。
有紗陽が作ったゼリー(失敗作で不味い)を
食べた時無表情で水神様は固まっていた 笑
それだけならただの笑い話だったんだけど、
水神様が有紗陽をかばって槍で刺されたり
石を投げつけられたのはそれより後の話。
その頃から痛みも感じていたのなら‥
仮に痛みを感じていなくとも有紗陽には
とてもつらい光景だったのに、あの時
さらに痛みを感じていたかもという。
有紗陽は涙を流しながら水神様に謝るけど、
水神様はそんな痛みよりも心の痛みを訴える。
「…泣くな……っ、胸が痛む。」
大切な有紗陽の涙で胸を痛めるように
なってしまったよ、あの水神様がね。
良い変化かもしれない、でも今はもう
素直に成長だねーとか言ってられない。
そんな水神様と有紗陽を見てるのが辛い。
本当に、なにか方法はないんだろうか。
2人が幸せになれる方法はないんだろうか。
どんな結末でも次巻11巻で最終巻です。
最後までお付き合い頂けたら幸いです。