水神の生贄 第9巻

著:藤間麗 先生

「これの生は終わった。いかに
神なれど容易く命を戻すことは
出来ぬ。---が、手立てがない
わけではない。贄が必要だ。」

比乃を助けるには贄が必要、比乃の
代わりに誰かの命が必要になると
闇の神は言う。初めは拒絶した。

でも、比乃を助けたい一心で悩めば
悩むほど闇につけこまれるようだった。
たくさんのことを後悔する、嫌なこと
辛いことに自分がちゃんと向き合って
来なかったから、全ては自分のせい
なんだと黒瀬は思ってしまったようだ。

「…約束だぜ…贄は集めるから
…比乃を戻してくれよ……。」

最初は比乃のためだったんだと思う。
でも黒瀬は、少しずつ狂い始めた。

何よりも比乃のためにやっていたこと
なのに、それすらも忘れてしまった。

話は水神様と有紗陽に戻る。
元の世界に帰れと言われた話。

帰ることを拒んだ態度を取る有紗陽に
水神様はいつならいいのだと訊ねた。

一時の時間稼ぎのような返事をした。
でもどうしたっていつかは元の世界へ
帰ることを選ばなければならない。

昔はあんなに帰りたがったのにね。
今はあの頃とは変わってしまった。

(どうしよう水神様。私もう、胸が痛い
の。だって多分水神様が好きだから。)

有紗陽は水神様への気持ちを自覚して
しまった、離れたくなんかないよね。
帰ってしまったらきっともう今度こそ
一生会うことは出来ないんだろうから。

狐雅彦率いる反逆者が攻め入ってきた。
大王・雪平は王の座を追われてしまった。

有紗陽たちが逃げてきたムラの民の噂では、
太陽の神が舞い降りたなんて話を耳にする。
今までは水神様を祀ったのが良くなかった。
水神は邪神だった‥ムラの民は口々に言う。

このムラの人々は神を絶対的なもの
だと信じ込んでいるフシがあった。
突然こういう変化があれば太陽の神
のおかげだと信じてしまうんだろう。

それが悪いというわけではないけど‥
この先どうなってしまうんだろうか。
これ以上何か仕掛けて来る気がない
ならいいけど、不安が消えてくれない。

大王の名は雪平というらしい。
そしてずっとその側仕えをして
いた青年は彼の兄だったらしい。

異母兄弟。幼くして親を亡くして
しまった彼が大王としてこれまで
頑張ってこられたのには、やはり側
で支えてくれた兄の存在は大きい。

優しくしっかりしたお兄さんだよね。
母親の位の違いで苦労もしただろうに。

こんなふうに支え合っていける関係は
とても素敵だと思った。でもそんな中の
ほんの小さな心の闇にもつけ込まれる。

闇の神は本当に恐ろしい存在だな。
後に、そんなことに気付かされる。

(こうやって日々を平穏に過ごして
いけるならそれでいいと思う。
そうやって過ごせるなら国の舵は
誰がとっても本当はいいはずだ。)

有紗陽はそんなふうに思っていた。
でもその矢先、有紗陽達がいた
ムラが暗い闇に覆われてしまった。

「邪神を崇める者が
このムラにいるんだ…!」

ここを発つために身を隠しながら
用意を始めようとする彼らだったが、
大王の兄の心の闇を利用されたようで
大王も有紗陽も発見されてしまった。

周りを囲まれ攻め立てられる。
槍を向けられ石を投げられる。

「近くにいなければ守れぬ。力は
振るえぬ故、盾くらいにはなろう。」

そんな状況で水神様は有紗陽を
抱きしめ必死に守ろうとした。

「人とは誠…弱く…愚かな。」

そんなことを言いながら、彼は
どこまでも優しい表情を見せた。

そんな時、ムラの子供が口を開く。

素朴な疑問、だったのかもしれない。
でも実際少し考えれば気づけるよね。
それでも大人達は決めつけて行動した。
この子供の言葉に対しても、とにかく
邪神なんだと言い張るだけだった。

おかしな話だよ、ほんと。

水神様、確かに最初は心がない酷く
冷たい存在に思えたこともあった。

でも有紗陽と出会って変わったんだ。
それに気づいてなんて言っても意味は
ないけど‥さすがに酷い話だよね。
どこまでも、恐ろしい時代、世界だ。

人と人が関わればこのような残酷な
ことも起こりうるのかもしれない。
そんな中でこの子供のように声を
あげられる人は少ないかもしれない。

‥でも、そんなのは嫌だな。
なんて、いろいろ考えてしまった。

いつからだったかはわからない。
でもここ最近水神様にはおかしな
点が多かった。力が弱まっている。

ムラの民に囲まれた後、太陽の神だと民から
崇められている狐雅彦に有紗陽は攫われた。
有紗陽を守ること言った水神様がそれを
止められなかったのもきっとその影響。

それに気付いた翠葉流にどうして‥
と聞かれるけど、理由は答えなかった。

「…あれには言うな。」

ただ有紗陽には知られたくないみたい。
有紗陽に元の世界に帰るように言ったのも
大切に想いすぎるが故の決断な気がする。

推測だけど、力が弱まっていていつまで
彼女を守れるかわからない状況なんだと
したら、少しでも早く安全な元の世界へ
送り返すべきと考えたかもしれないね。

友 ‥ そう言ったけど、普通の友という
のはどちらかというと水神様と翠葉流や、
他の神々との関係の方が近い気がする。

有紗陽に向けられたものは水神様の
全力の想い、そして愛情、きっとこの
先の自分のことなど考えもせずに
ただ有紗陽のためだけに動いている。

それを恋だと言ったら、もしかしたら
それだけでは足りないかもしれないけど。
でもきっと彼の想いはそれ以上だろう。

『愛』なんだろうなぁ‥

ほんと、この神様不器用すぎだよ 笑
彼の願いが、彼の想いが叶うよう、
可能ならまた2人で笑い合えるよう。

狐雅彦の元に連れて行かれた有紗陽は
一緒に囚われた大王の世話をしながら
日々を過ごした。闇に飲まれた兄の態度
のせいもあり、精神的にも酷く落ち込んで
いるようだったし体調も悪化するばかり。

有紗陽も好き放題動けるわけではなく、
彼女なりに今出来ること探してそれを
一生懸命している状況に思えた。

そのうち水の巫女は新たな王につくこと
になったとムラの民は噂をし始める。
もちろんただの噂でしかないのだけど。

そんなある時、有紗陽は狐雅彦のいた
ムラに連れて行かれる。そこの人々は
皆家族であるようにとても仲が良くて、
とても温かい空気感がある場所だった。

でもそこに有紗陽達を取り戻すために
翠葉流達が兵を率いて攻め入ってくる。

しばらくそのムラで過ごしてきた
有紗陽にとってはもう、どちらが
敵ということもなかっただろう。

どちらにも、誰にも戦ってほしく
ない。怪我だってしてほしくない。

必死に戦う狐雅彦、そしてムラの民達を
よそに黒瀬は有紗陽を連れ逃げようとする。

「劣勢だねぇ、ここは諦め
ようか。水の巫女だけ連れて…」

「これも王の道だよ、仕方のないことだ。」

これまでもこうやって黒瀬は人の心の闇に
つけ込み落としてきたんだろう。どんどん
闇に飲み込まれそうになる狐雅彦、彼が
何より大切に思っていたこのムラを民を
見捨てさせまいと必死に有紗陽は止めた。

でも戦況は決して良い状況ではない。
今この争いを止める方法なんて、人
だけの力では難しいのかもしれない。

~ひとこと~

高台に登って、戦を止めようと必死に
叫ぶ有紗陽の声は誰にも届かなかった。
でも悔しさからか涙を流すと、そこら
一体に大量の雨が降る。そこで彼女を
見つけ涙を止めたのは水神様だった。

「自覚せよ、そなたは唯一の私の巫女だ。」

戦いをやめさせたいのに自分には
何も出来ないと嘆き悲しむ有紗陽
に水神様はそんなことを言ってきた。

ここからどういう展開になるのか、
早く次巻、早く次巻読みたい 笑

レビューはまた来週になりますが、
良かったらまたお付き合い下さいね。