水神の生贄 第8巻

著:藤間麗 先生

突然有紗陽が連れ去られてしまって、
自分の力では助けられないと理解した
水神様はしばらく挙動不審だった。

ひたすら有紗陽の気配を探そうとするも
どこにも見つけられず、あの闇の中に
自分で行って助けることも出来ない。

不安で不安で仕方なかったんだろう。
そんな時、木の神の助言を受ける。

「人を迷い込ませるための入り口が
あったはずだわ。人であれば……。」

水神様自ら助けに行くことは出来ない。
それでも人なら有紗陽を助けられるかも。
そう知った水神様は迷わず翠葉流を頼った。

不安を隠すこともせずただ縋った目で
翠葉流に頼ってくる。これがあの神だ。
最初の頃の水神様からは想像できないね。
相変わらず人にほどんど興味を示さない
彼だけど、有紗陽のことだけは大切で
仕方がないんだ。きっと良い変化よね。

入り口から入って、翠葉流は無事有紗陽を
見つけた。そして入り口まで連れて行くも、
そこに現れた黒瀬が入り口を塞いでしまう。

あとになってわかるんだけど、常闇と
一緒にいた男の名は黒瀬というらしい。

外へ追い出される翠葉流、そして有紗陽は
中に取り残され黒瀬に捕まってしまった。

「こんな綺麗な顔が醜く腐っていくんだ
からね。君を愛する男でもそんな姿を
見たら逃げ出しちゃうだろうなぁ。」

このままこの闇の中にずっといたらいずれ
有紗陽も腐ったゾンビになってしまうだろう。
でもそうなってしまった有紗陽を見て水神様は
なんて言うかなと想像した有紗陽は、大して
気にしていない態度を思い浮かべ吹き出した。

そんなほんの少しのことで、有紗陽は
落ち着きを取り戻したようだった。
でも黒瀬に反撃しようとするも相手は
神をいいように使っている男なんだ。

「常闇!早くあの女を腐らせちまえ!」

常闇の力で闇に包まれていく有紗陽。
たとえゾンビになっても気にも留めない
かもしれない、それでももし死んだら‥?

有紗陽が元の世界に戻っていた間の
ことを、彼は寂しいと言っていた。
もし死んでしまったら水神様をまた
寂しくさせてしまうのかもしれない。

それは嫌だと有紗陽は思った。
そうして溢れた涙が地に落ちると、
そこから水神様が現れて無事救出。

闇の中に他の神は入れないということ
だったけど、有紗陽には水神様の力の
一部があって、その影響だったのかな。
有紗陽から出た水だったから、そこに
水神様の通り道ができたのかもしれない。
今後も不安は多いけど、一先ず良かった。

無事救出されて早々、有紗陽は闇の中で
想像していたことを水神様に聞いてみた。

「人間なのだから仕方ないな。」

「異常ないな。(気にも留めない)」

有紗陽が想像した反応はこんな感じ。
そして案の定、全然気にしなさそうだ 笑
そういう所も、水神様の好きな所かもね。
無頓着ってだけだとしても、救いだった。

これからどんなふうに生きてくんだろう。
まだまだわからないけど、有紗陽も水神様も
一緒に笑顔で過ごせたらいいなって思った。

いろいろと怖い思いもしてきたけど
それでもこの世界で有紗陽なりに自分
の生き方を見つけているように思えた。

そんな矢先のことだった。

水神様が突然、『有紗陽』と名を呼ぶ。
名前で呼んでくれたことが嬉しくて、
照れくさいけどもう一回呼んでなんて
言ってみたりして‥嬉しい気持ちで
いっぱいだったのに直後落とされる。

あまりに急すぎる。水神様は心に
どんな思いを抱えて言ったのか。
ほんの少し、気になる描写はあった。
気にするほどのものかわからないけど、
水神様がなにかに気づいたのか、
何か考え込んでいるのか‥そんな
何を意味していたのか曖昧な描写。

有紗陽の身を案じてということだと
しても、急すぎるな‥有紗陽が心配。

ここからは、黒瀬の回想が描かれていた。
黒瀬って名前からも髪型とかからもある
程度想像できたかもしれないけど、やはり
元々有紗陽と同じ世界を生きた人っぽい。

でも彼には居場所がなかった。学校にも
家にも、親もろくな人間じゃなかったし
友人なんてものもいなかったんだろう。
ずっと暗闇に隠れて生きてきた存在。

他生徒に喧嘩を売られることもあったの
かな、ある日階段から突き落とされる。
その直後、そこは突然真っ暗闇だった。

「…いや…だ。死にたくない………!」

そう叫ぶとそこにいたのは常闇だった。
そしてそこは黄泉国と呼ばれる闇の中。

ゾンビのような腐った元人間が徘徊して
いるそこを見て、黒瀬は暗い表情をする。

「俺、死んだのか……。」

その直後視界は深い森の中、有紗陽が
飛んできた水神様のいる世界が広がる。

常闇が何を思ったのかわからない。
でも彼は何らかの理由で常闇に
生かされたのかもしれないね。

元の世界での生活が彼にはきっと苦で
しかなかったから、ここでの生活は
彼に多くの変化を与えることになる。

黒瀬は比乃という女の子とその父親に
保護してもらえた。帰れっこないし、
きっと帰りたくもなかっただろう。

帰らなくていいのかと聞かれ、戦で家も
家族も亡くして帰る場所がないと伝えた。

「だから…いろいろ手伝うんでこのまま
置いてくれたら嬉しいんですけど…。」

それを比乃父は優しい笑顔で受け入れた。
それからの黒瀬はとても優しい表情を
見せることが増えたような気がする。
比乃達と一緒に生きて、とても充実
した日々を送ることができたんだろう。

でもそんなある時、戦が始まった。
黒瀬も戦力として駆り出されるも、
戦のない平和な世界で生きた彼が
いきなり戦で戦えるわけなかった。

死んでいく人々、充満する血の匂い。
それに怯んでしまった黒瀬を狙う敵。
黒瀬をかばって、比乃父は亡くなる。

「比乃を…守ってくれ…。」

最後にそんな言葉を遺して逝った。

その後のことはわからないけど、
多くの死者が出てその戦は終わる。
奇跡的に生き残った黒瀬が家に帰る
と、崩れた家に押しつぶされた比乃。
頭から大量に血を流して倒れていた。

現代の医学があれば助かるものかも
しれないが、この世界ではきっと比乃
は死を待つことしかできなかったろう。

医者を探そうとしても、ムラの人は
水神様に祈れば治るなんて言ってくる。

人に助けを求めても解決しない。
祭祀に行って水神様や巫女(多分
まだ幼い頃の有紗陽)に助けを求め
ようとするも不吉だと追い返される。
追い返したのは多分翠葉流の母だ。

黒瀬にあんなに良くしてくれていた
おじさんも自分をかばって亡くなり、
彼に託された可愛い妹のような比乃も
何もできないまま死なせてしまうのか。

‥つらいよな、つらすぎるよな。
こうしてまた一人ぼっち暗闇の中。

やっと見つけた生きる意味、生きる
道をまた失ってしまったんだろう。

必死で、黒瀬は闇の神に願う。
ただただ、比乃を助けてくれと。

常闇が度々浮かべる笑顔が恐ろしい。
有紗陽と黒瀬が再会することになる
近い未来、常闇は暇つぶしに人間の
言うことを聞いているようなことを
言っていた気がするけど、この時の
常闇は一体何を思ってるんだろう。

心がわからなすぎて、ただただ怖い。

~ひとこと~

有紗陽と水神様のことも、黒瀬と常闇の
こともわからないことが多すぎていろいろ
不安な気持ちでいっぱいだ。一体この先
どうなってしまうんだろう。絶望によって
黒瀬が闇に染まった人間になったとしても
比乃の復活を願った彼の真っ直ぐな思いと
有紗陽を酷い目に合わせる彼が繋がらない。

仮に祭祀のことや、願おうとも何もして
くれなかったと感じたかもしれない水神様
のことが影響してるのかもしれないけど‥

わからないな、どうしてあーなったのか。
水神様は水神様で何を考えているのか。

気になることは多いですが、また次巻少し
でも安心できる展開があればと願います。