著:藤間麗 先生

(何故、神様は救ってくださら
なかったの?すべてすべて枯らして
しまってから雨をくださった。)
過去にひもじい思いをして
家族を失った…これは、あの
巫女の過去なんだろうか??
水神の力を我が物にしようと
しているように思えていたけど、
きっと彼女にとってはそれだけ
ではない恨みみたいな思いまで
持っているような気がしてきた。

水神の力を手に入れるために、
有紗陽をまた狙う作戦を練る。
食事にこの毒を混ぜた…だが、
それを飲んだのは水神だった。
毒が入っていることを見抜いて
代わりに飲み干してしまったw
この作戦が失敗すると、今度は
人の姿をしている時の水神を狙う
等という方法を企ててきた巫女。
どれだけ水神が有紗陽の危険を
回避しようとし続けても、巫女
のこの企ては終わってはくれない。
一体どうすれば…

巫女の歪んだ悪意に触れ、土砂に
押し潰されそうになる水神を守ろう
とした有紗陽が大怪我を負った。
怪我は水神の力で治せたけれど…
(娘のうけた痛み、恐怖、向けられた
悪意が、憤ろしい。こんな世に置いて
おけるか、汚い人間に触れさせるか。)
(私と共にあればいい、痛みも、
苦しみも、恐怖もない、神の中に。)
有紗陽が目を覚ますと、そこは
見慣れた…でもとても懐かしい
幼いころまで自分がいた世界。
父も母もいて、学校に向かう。
一緒に学校に向かう翠葉流。
学校に行けば教壇には月彦先生。
水神の知る存在だけで構成
された、有紗陽が苦しむこと
のないふわふわした世界。
有紗陽が苦しまないためだけに
造られた水神様の力の中の世界。
(ふわふわする。なんだかすごく
心地良い……あったかい……。)
きっととても温かい幸せな
世界だったろうと思う。
つらいことは何もない世界。
でもそこに、水神の姿はない。

水神の目には、彼の力の中で
眠り続ける有紗陽が映っていた。
ある時、何かがおかしい…自分は
何か大事なことを忘れている…
そんな違和感に襲われて
有紗陽は表情を歪めた。
(認めよう、そなたがいないと退屈だ。
おまえが眉を動かしただけで疼くよう
な期待はなんだろう。おまえはどちら
がよかったのだろう。傷つき泣くこと
のあるこの世でもいいだろうか。)
水神には、気がつくと心があった。
有紗陽を大切に思い、大切な有紗陽を
傷付けるものを敵とみなし憤る心が。
そして自分に出来る方法で必死に
有紗陽を守ろうとした…それでも、
彼女の心を一番大切に思っている。
そんなふうに感じて取れた。
「おはよう、水神様。」
「……ああ、おはよう。」
水神の有紗陽への思いと、有紗陽の
水神への想いが彼女をまた水神の
元へ帰ってくる道を作ったのだろう。
傷付いても、辛くても…有紗陽は
これから先この世界で水神と共に
苦しみながらも生きてくんだろう。

水神は翠葉流や他の人々の記憶
から自分に関するものを抹消した。
そうすれば、有紗陽はただの少女、
水神の巫女として狙われるような
ことはなくなるだろうから、と。
「私は忘れないよ。」
そう言った有紗陽の記憶をも、
水神は消し去ってしまった。
水神は、有紗陽が溺れている
所を助けた青年ということに。
そんなふうに今までの記憶が消えて
しまっても、有紗陽は水神に今まで
と対して変わらず笑顔で接していた。
そんな彼女の表情に安堵する
水神。そして今の水神だから
気付けたことが多々あった。
あの時ああしていればもっと
おまえは安心しただろうに、
笑っただろうに…なんてこと。
そして水神の力のことなど
知らずにふとこぼした弱音。
それを聞いてしまったから…
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
「ああ……私はまた間違ったのだ。」
あることをきっかけに、有紗陽は
水神のことを思い出してしまう。
そして水神は間違えたのだと気付く。
「知っていた。おまえの夢が見えた
から、ここではないどこか違う世界。
それがおまえの居場所なのだと、
そこから『直して』やらなかった
のは傍に居たかったからだ。」
彼が出した答えは有紗陽を
元の世界へ返すということ。
「さようなら。」

元の世界に戻ってくると、
有紗陽には弟が出来ていた。
歓迎されていない様子だった…
それでも、優しい子だった。
「私のことは好きじゃないけど
1人で行かせてお母さんたちを
心配させるのを心配してる。」
元の世界での生活に、まだ
慣れなく不安な姉を放って
おかずについて回ったのだ。
彼に手伝ってもらいながら、
有紗陽は図書館に行った。
水神を祀る祠にも行った。
(いない…ここにはいないんだ。)
随分前の話だ。水神様に、
かけがえなく思えたら、
私の願いをきいてくれる?
そう、言っていた有紗陽。
気づけば、水神にとって有紗陽は
かけがえのない存在になっていた。
そんな有紗陽が願いを口にしたから
水神はそれに応えてくれたんだろう。
(なんと残酷な願いだろう。
あんなに優しそうに、あんなに
悲しそうに私に心をくれたのに
置き去りにしてしまった。)
涙を流す有紗陽…すると雨が…
泣き止むとその雨も止んだ。
「まだ…繋がってる…!」
まだ…有紗陽とあの世界は
どこかで繋がっている。

置き去りにした心を取り戻そう
と、有紗陽はその日から必死に
関連しそうな情報を集めだした。
難しい内容で一見よくわからない
ような内容…それでも有紗陽には
覚えることが出来た。それは水神
の力なんだろうと有紗陽は思う。
調べごとをしていた時、突然
グラスの中の水が湧き上がった。
そして、どこから聴こえてくる声。
「……ひ…」
「有紗…陽」
声が聴こえてくる先には庭の池。
またこの池から戻れる…?そう
有紗陽は思ったのかもしれない。
それを引き止めたのは弟だった。
本当に戻れるかなんて、また
水神や翠葉流のいたあの世界に
行けるかなんてわからないだろう。
有紗陽は…またこの世界の家族を
捨てて戻れると言うんだろうか。
…どう、するんだろう。
~ひとこと~
いやはや…今回もやったら
お話深くて…一先ず泣いた。
いろいろありましたが、水神に
とっても有紗陽にとってもきっと
お互いがかけがえのない存在に
なってしまったんじゃないかな?
お互いにきっと優しくも切ない
想いを抱えているんだろう。
…どうなってしまうんだろうね。
きっと両方なんて選べるものでは
ないんだろうと思う。有紗陽が
元の世界かあの世界かどちらかを
選ぶことしか出来ないんじゃない?
簡単なものではないだろう…
また次巻…めっちゃ気になります。