水神の生贄 第3巻

著:藤間麗 先生

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巫女として学び、初めて祭祀に
出た時、有紗陽は足を滑らせて
湖に落ちた。探しても見つからず…

有紗陽はまた水神の元に来ていた。
今度は食べ物も与えられ、ただ
ひたすらにその様子を眺められた。

まるでにらめっこのようなそれが
3日続いた頃、水神の飽いたように
「もうよい」と地上へ帰された。

次の年は足をすべらせることも
なく無事終わると思われたが…

「なぜ今年は水神様
に呼ばれないんだ?」

「見放されたんじゃ……!?」

そんな人々の言葉に、有紗陽
は自ら湖に飛び込んでいった。

目につかない所でこっそり
上がって戻ろう…そう思った
のに、気付いたらまた水神が
目の前にいた。そしてまた同じ
ようににらめっこをする3日間。

また次の年からは、湖の水
が盛り上がり有紗陽を湖に
引きずり込むようになった。
そしてまたにらめっこをする。

そんなことを繰り返していく
うちに、自分を眺めている
水神の表情が、有紗陽の表情
を変えたり動いたりすると
一緒に変化していると気付く。

マネをしているわけではない
ようだったけど…だったら一体
何をしていたんだろうね、水神。

彼は最後にこう言った。

「次は俯くな。」

巫女…不思議なことになってるわ。
そんな数年を生きてきたらしい。

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回想終わって今年、儀式のために
禊を行っていた時、他のムラの人が
水神の加護を受けたいがために
有紗陽を攫っていってしまった。

それを知った翠葉流は、有紗陽を
助けるために兵を出そうと母に話す。
昔から変化なく、それを許さない母。
でも、翠葉流は大きく成長していた。

「では私の好きにさせて頂きます。
義理でお伺いしただけのこと。」

本当に強くなったな。
きっと戦うすべも学んだ。

有紗陽のことになると、
たまに怖い顔をするけれど、
それも大切なものを守りたい
一心なんだろうなと思う。

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攫われた先のムラで捉えられた
有紗陽を迎えに来た翠葉流。
連れ去る途中で矢を打たれ、
逃げ切るのは無理かと思われた。

そこで有紗陽が出た行動
とは…自分に刃物を突き立てて
崖から飛び降りたのだった。

それを、あの何もせず眺めて
いるばかりだった水神が助けた。

水神がこんなに慌てた表情を
見せたのは初めてかもしれない。

でもそれを見て有紗陽は笑った。

「私を……試したな。」

ほんと、試したのかもしれない。
恐ろしい子だわww

一先ずは助かったけど、今後
いろいろ大丈夫なのかしら。

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その後、水神は力を使って有紗陽と
翠葉流を助けた。翠葉流の怪我も水神
が治し、無事逃げ延びた2人だったが、
これで水神の加護を再確認した有紗陽
を攫ったムラの者達は、余計に有紗陽
を欲するようになり…戦争になった。

自分のせいで戦っている人々。
その状態を遠くでただ待つことが
できず、水神と一緒に状況を見に
やってきた有紗陽は、出ない声を
一生懸命出すように叫ぼうとする。

そんな様子を見た、水神の気まぐれ。

「(―ふと、聞いてみてもいい
と思った。五月蝿いと奪った
娘の声を。どんな声だったか。)」

声を返した途端、有紗陽は大声で
叫び続けた。自分が叫んでいる、
声が出ていることに気付くのが
かなり遅れるくらいずっと叫んだ。

「神様がたとえ優しくたって
殺し合って奪って、そんな
悪いばかみたいな人間の
願いなんかきくと思うか。
私が神様だってきくもんか。

神様はっ、なんなの暇なの
暇つぶしなの、気まぐれに
私を助けるくらいなら…。」

そこまで叫んで、ようやく声が
出ていることに気がついた有紗陽。

そんな有紗陽の様子をひとしきり見て、
水神はツボにハマったように笑い出す。

この笑顔、抜粋できないことを
悔しく思うくらいいい笑顔だったw

そうして、最後に助けてやろうと言う。
今までは、声も出せずにいろいろと
訴えることも出来なかった有紗陽の思い。

無慈悲な水神には決して届かないと
思っていた思いが、初めて届いた。
それくらい、水神にとって有紗陽は
特別な存在になったのかもしれない。

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その戦争は、水神が振らせた
雨で撤退を余儀なくされた。

とはいえ、ムラを流してしまう
ようなものではなく、ただ大雨。

「人ごとき、流すこと
など容易いが……。」

だめ。

「あ…だか…ら…」

「…わかっている。」

有紗陽が悲しむようなことを、
水神は本当にしなくなったね。
いろいろ、変化したものだよ。

そんな日の夜のこと。

「そなたも育った。いい月夜
ではないか。婚礼を挙げるか。」

いや。

瞬時にお断りした。
水神の有紗陽の認識など、
動いて食べて寝る人形程度。
そして有紗陽にとっても水神
は人形と同格なのだという。
人形…正確には埴輪…だろうか。

「お互いが大事な人じゃ
なきゃだめなの…!!」

有紗陽の気持ちを、水神も了承して
くれたようだった。ただ埴輪と同格
ってのが納得いかなそうだったけどw

有紗陽の願いは、元の世界に
帰らせてほしいということ。
今すぐにでも叶えてほしい…それ
でも、無理だと言われてしまうのが
怖くて今はまだ言えなかったようだ。

いつか、叶えてくれるんだろうか。
それとも、元の世界に帰るよりも
もっと、この世界との別れが惜しく
なってしまうようになるんだろうか。

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お互いを大事に思えるようにならなきゃ
結婚はしないと言った有紗陽のために、
有紗陽の元で一緒に住むと言う水神。
周りの人には、力で幻惑に懸けた。

なんでもありだな神w

有紗陽の付き人ということだ。
うん、祭祀はいらねーな。その
水神はここにいるからな…ふふふw

なんやかんやと慌ただしいな。
中止になどできまいと、月彦の
熱弁で祭祀の準備に向かう有紗陽。
そこに着いてきた水神と、護衛を
するという翠葉流が会ってしまった。

昔、有紗陽を連れて行った男。
その顔を今も覚えていたようだ。
それが水神だと理解していた。

そこで妙な違和感を覚える。
無慈悲で恐ろしく冷たい存在
に思えていた彼の印象は大きく
変わっていた。毎年祭祀の間
会っていたであろう3日間。

有紗陽と水神が視線を交わした
その数日が、結果的に神に大きな
変化をもたらすものになった。

神に力で及ぶはずもない。それ
でも、有紗陽を守りたいと思う
気持ちだけは神にも負けないと、
心に強く刻んだ翠葉流だった。

~ひとこと~

いろいろあったけど、翠葉流にとって
有紗陽はとても大切な存在だった。
恋してるってことなんだと思うけど。
そして水神…今はまだそこまででは
ないのかもしれないけど、少なからず
有紗陽に恋してるんだろうなって
伝わってくるようなシーンがあった。

有紗陽を悲しませたくないから、
有紗陽が大事だと話す翠葉流に
手出しをすることもほとんどない
けれど、それでも有紗陽をまるで
自分のもののように必死に守ろうと
する翠葉流に対して敵意のような
ものを示しているように思えた。

水神は自覚はなさそうだけれど、
有紗陽を大層気に入ってるのは確か。
有紗陽は、好きって気持ちを誰かに
抱いてる様子はまだないように思える。

翠葉流に対しては、恩人で大切
な友人で…って感じだと思うし。

彼女の気持ちの変化も、今後
気になっていくところですね!