著:嶋木あこ 先生

さーて突然のことですが、
修業をするためにと恭之助は
米駒屋に預けられることになる。
このばあさんのようなじいさん←
高村恵利左衛門…恵太郎の祖父だ。
なんかいろいろ…すごい人のよう
だけど、木嶋屋に対しては随分
お気に入りのようだけど、轟屋、
特に一弥のことは嫌いな様子だ。
雑誌のインタビューでの
一弥のことを嘘まで交えて
ひどく言っていたくらいだ。
でも…実力を見た上での嫉妬…
恭之助を渡したくないという
気持ちの現われにも思えた。
一弥…もともと門閥外だ。
嫌われやすいのもわからなく
はないが、それでも大きな
敵を作りすぎてる気がするな。

恭之助が米駒屋に通い始めた
頃、一弥は西田屋、完二郎の
元に通うようになっていた。
前回やらかした手前、ほぼ強制的な
ものだったんじゃないだろうか。
そこで、舞踊会をやることになり、
藤娘をやりたいといい出した一弥。
これは、西田屋の舞踊会と同時期に
恵利左衛門がやろうとしている演目。
一弥のこの演目の選択は、明らかに
恵利左衛門に対抗しての選択に思えた。
周りに対しては否定していたけど、
これを選択し恵利左衛門をその舞台
に招待したいという連絡をわざわざ
河村にしたりして…策士っつーか。
若造に負けるわけがない…そんな
思いで一弥の藤娘を見に行った
恵利左衛門は、ショックで藤娘を
降板をすることになってしまった。

一弥の藤娘のことを、恵利左衛門に自信
喪失させるためにわざとやったんじゃ…
そう話す恵太郎に対し、あいつがそんな
ことをするわけがないと議論した河村。
しかし本人に聞きに行ってみれば、
最初のうちは否定していたけれど
最後には肯定されてしまったのだ。
「落ち込むと思って
ワザと見せてやったんだ、
エリザベスに。」
否定するのを辞めた理由は一つだ。
雑誌で書かれていた酷い内容を
河村は知らない。それでも、以前
桜姫を演じるにあたって真っ先に
恵利左衛門の元に教えを請いに
行った一弥は、あっさり断られた。
それなのに、その雑誌には自分に
教えを請えばもっとよく…なんて
いう内容が書かれていたのだった。
そして河村までもが同じことを言う。
耐えられなかったんだろうな…
恵利左衛門に対しても、隣に
並びたくていろいろ無茶もしたのに
その恭之助に否定されてしまうのも。
恵利左衛門は以前稽古中に腰を
痛めて河村にマッサージをさせて
いたことがあったんだ。きっと
若い頃に比べて、身体だって
思うように動かないししなやかな
動きなんてどんどんできなくなる。
そういうコンプレックスがあったから
余計に若い一弥に嫉妬したんだろう。
あ~、ヒロキ、本末転倒だよ。

ヒロキの行動の理由と真実。
直に話した時には忘れていた
ことも、米駒屋に戻ってくると
恵太郎が例の雑誌を見ていて
その内容を話してきてくれた。
そして、実際はちゃんと教えを
請いに来ていたということも。
それを聞いてやっと思い出した河村。
自分は結構やばいことを言ったんだ
と後悔してヒロキの元へ戻ろうとする
が、落ち込みまくった恵利左衛門に
捕まってしまってそうもいかない。
だから、そのうち会った時に
謝ればいい…なんて思ってしまう。
ほんとにそれでいいんだろうか。
…正直いろいろタイミングの悪い
人たちだから、不安しかない。

その頃…ヒロキの虫の居所も大分
悪かっただろうな~と思うけど、
更に厄介なことが重なっていた。
ヒロキの部屋には、例の合コンで
会った彼女が未だに出入りしている
様子だった、今もちょうど来ていて、
そんなタイミングで優奈が来た。
鉢合わせ、父親に言いつけると
攻め立てた優奈に対してヒロキは
随分と冷たい言葉を浴びせてやった。
「師匠に言いつけてもかまい
ませんよ―――でも…僕をつかまえた
ことが唯一の取柄なのに、それ
すらなくなったらどうするの?」
以前、父親に言われていたんだ。
優奈は何の取柄もない。それでも
ヒロキをモノにしたことだけは
誉めてやる…って、きっついわ。
今や優奈はヒロキにとってもう
必要のなくなった駒のような扱い。
ひどいな。さすがにこれはひどい。
こんな状況で頼れる相手なんて
1人しかいなかったんだろうな。
優奈は泣きながら、梢六の元へ。

今まで明かされることのなかった
梢六の過去や優奈と知り合った
きっかけ、そして今に至るまでの
梢六サイドの話が明らかになる。
歌舞伎に興味を持った時期は
梢六もヒロキも同じ頃だった。
でもそこから黙々と努力し続けた
ヒロキに比べ、梢六の方はもっと
大人になってから…なーんてことを
考え何年も無駄にダラダラ過ごした。
そして大学生になった頃ようやく
歌舞伎の世界に入るための努力を
始めたのだった。優奈のことは
前から轟屋の娘として知っていて
可愛いなとも思っていたらしいが、
偶然話すことがあって、その時に
何かできることがあれば…なんて
最初はただの良心で言ったのかもな。
そこに帰ってきた言葉が、一弥の
監視をしてほしいということだった。
だが、監視の手始めに雑誌等で
一弥の情報を確認してみれば、
自分がだらけていた時期に彼は
一生懸命頑張っていたとしる。
自分と同じ門閥外からの出で、
それでも努力し続けてここまで
這い上がってきたのだと知った。
(アイツさえいなければ何も
知らずに済んだのに。アイツ
さえいなければ何も後悔する
ことなんてなかったのに。)
一弥を嫌いな理由がやっとわかった。
後悔することばかりで悔しいからだ。
…そんな所にやってきた優奈。
これから、どうなるんだろうか。
~ひとこと~
あ~、なんというかいろいろ
複雑ですね。歌舞伎界ってのは
いろいろ奥が深い、そして難しい。
まあ、歌舞伎界だけじゃないかも
しれないけどね。ほんと…怖い。
優奈は昔から逃げてばかりで
立ち向かうことをしない子だな
とずーっと思っていたんだよ。
今だって、結局怖いことから
逃げ回っているだけなんだ。
そういう所は好きじゃない。
でも、今回は相手が悪かった。
ヒロキを相手にしたら、さすが
に可哀想すぎることが多くて…
梢六っていう逃げ場があって
良かったかもしれないと思った。
でも…どうするんだろうね。
轟屋がギクシャクしそうだよ。