著:夕希実久 先生

翔は林さんを連れて秋保家にやってきた。
久々に話せたからと、林さんはひたすら
翔の好きな所を伝え続けてきて‥
「おれも好き。林さん。」
突然の翔からの言葉に、気を使わせた
と思ってしまう林さんだったけど、
全然そんなんではなくて素直な気持ち。
「たぶん全部好き。」
「まだ全部知らないけど、きっと
全部。俺の好きは友達のしての好き
と違うと思うけど。だから最近うまく
話せなくなっちゃった…ごめんね。」
翔の言葉に、思いに‥きっとそこまで
想像出来ていなかったんだろうね。
ずっと気になってた、もしかしたら
ひそかに憧れていた彼が、自分に
対してそんな気持ちを持ってたとか
簡単には信じきれない奇跡だったかも。
でもきっと救われたのは翔の方で‥
また学校に行けるようになったのも、
彼女の存在はきっと大きかった。
今の翔が笑顔でいられるのはきっと
林さんが翔を見つけてくれたからだ。
付き合うのかな‥?まだそれは
わかんないけど、お互いにすごく
大切な存在になったんだろうな。

翔と林さんのことを知って、放心状態
になってしまった、翔の友人の小野原。
彼はずっと林さんを好きだったからね。
翔から気持ちを伝えられたんだろう。
どうしたらいいかわからなかったと
いうのが正直な気持ちかもしれない。
まだ付き合ってないなら、気持ちを
伝えておきたいという思いもきっと
あったんじゃないかと思うのに‥
林さんの前に言って小野原が伝えた
のは、林さんの気持ちの確認だった。
「林、秋保のこと好きなの?」
恥ずかしそうに‥でもはっきりと
頷いてみせた彼女に向けられた
表情は、随分優しいものに思えた。
小野原‥自分の気持は諦めて2人
を応援することにしたみたいだ。
翔‥ほんといい友人を持ったよね。

陽茉梨の古いアルバムを見つけた
所から、ある同級生を思い出す。
ケーキ屋さんの息子で、名前は
三ツ木 誠(みつぎ まこと)。
もちろん三ツ木と再会するためでは
なくケーキを食べるためにケーキ屋に
行ったのだけれど、ちょうど実家に
帰ってきていて三ツ木と再会した。
彼は中学の頃から陽茉梨を好きだった
ようで、家まで送ると着いてきた先、
同級生(男)の家に行くことを心配で
早く家に帰ってきていた秋保と遭遇。
ずっと好きだった子が気付いたら結婚
してて、変な男に騙されてるんじゃ‥
とか心配してのことかもしれない。
『ニート保護法』での結婚だとは
知らないのに、まるで知ってるかの
ように質問を繰り返す‥でも最後に
「無理をさせてませんか?沢本
が笑う一番の理由は、誰にも
心配かけないためだから…。」
笑うことの増えた陽茉梨を見て、
そんな心配をしての言葉だった。
陽茉梨をちゃんと大切に思ってくれて
いる存在だとわかったからかもしれない
‥秋保は、ニート保護法の被験者と
して自分と結婚したことを話した。
秋保は、自分の気持に関しては一切
伝えることがなかった。陽茉梨を
大好きで、ヤキモチを妬いてしまう
くらいなのにその気持は隠したまま。
「僕は、ちゃんと陽茉梨さん
に選んでほしいんです…。」
これはちょっと‥嫌な予感しかしない。

「もし…この制度と関係なく沢本と
出会ったとして、あなたは彼女を好き
になていましたか?沢本のいいところ、
ちゃんと見つけてあげられますか?」
三ツ木からそう問われた時、
秋保は即答できなかったという。
きっと‥無理だったんじゃないかな。
でもニート保護法によって出会って
関わり始めたというきっかけがあった
からこそ、こんなにも大好きな人に
出会えたんだと思えば‥きっとそれで
良かったんだと思いたいだけど‥
それでも、同じ学校で過ごして彼女の
良さに気付けた三ツ木に対してやはり
羨ましいと感じる気持ちもあったのかな。
昔の秋保じゃなくて、今の秋保なら‥
なんてあくまで過程の話だけども。

秋保と話をした三ツ木は、このまま
じゃいけないって思ったのかもね。
陽茉梨を動物園デートに誘った。
それを、秋保は友人と遊びに行く
だけだと自分に言い聞かせ送り出す。
その先で、秋保のことをちゃんと
好きなのかと陽茉梨に問う三ツ木。
「お仕事の一環でこんなによくしてくれる
なんてありがたいなぁって思ってます!」
三ツ木の問いに明るく頷いた後、
陽茉梨はそんなことを笑顔で話す。
秋保の気持ち、ほんっと全然届いて
ないんだよね‥これは流石に悲しい。
陽茉梨のそんな言葉で、三ツ木は
気持ちを抑えられなかったのかも。
気持ちが溢れて涙が出る。その
まま陽茉梨を抱きしめて伝える。
その涙の意味、言葉の理由‥今の
陽茉梨にはわかっていないようだ
けど、何を言われても今のままで
いいんだと、私は大丈夫だと言う
陽茉梨が彼には辛かったんだろう。

三ツ木が陽茉梨を抱きしめていた
その時偶然その場を見た人が3人。
梅村父、拓海、そしてつばめ父。
勝手にテンパった末、三ツ木を
捕獲して話をしようと試みる。
お互いがどういう存在なのか把握
した後、三ツ木は秋保に対して
感じていたことを喋りだした。
「沢本に何も執着がない
ように見えました。」
紺野さんはそれを笑いながら否定。
実際‥そうなんだろうなと思った。
陽茉梨のことばかり優先して自分の
気持ちなんて後回しにしっぱなし。
そんなだからこんな誤解をさせる。
そしてそれは‥きっと陽茉梨も同じ。
(それでもそばにいたいと思う人に
沢本は出会えたのか。良かった。)
そんな話を聞いたら‥なんだかやっと
全てに納得がいった様子の三ツ木は、
切なそうな‥でも安心したwような
随分優しい表情で笑ってみせた。

三ツ木が陽茉梨に言った言葉やら、
紺野さん達がしてくれた話なんて
全く知らない状態で、仕事でミスを
して帰りが遅くなってしまった秋保。
家に帰ると養●酒で酔っ払って
寝てしまっている陽茉梨がいた。
秋保の帰宅で起き上がると‥酷く
酔った彼女は抱えていた不安を
吐き出してきた。そこには、現状
に満足しているのに周りからは
幸せそうに見えないと言う不満が。
その現状というのがまた問題で‥
仕事だから良くしてくれてるんだと
いまだに思われていたことに気付く。
「この仕事はあなたに出会わせて
くれたという面でありがたいことだと
思ってます。陽茉梨さんが思ってる
よりずっとずっと俺は陽茉梨さんの
ことが大好きなんですよ?」
その言葉を聞いた彼女は‥随分安心した
ように、そして嬉しそうに笑っていた。
ほんと‥お互いに相手のことばかり
優先しているから自分の気持ちまで
伝えそびれていたのかもしれないね。
安心した陽茉梨は、またウトウト
しだしたので秋保がお姫様抱っこ
してベッドまで運んでくれた。
秋保が抱き上げた時陽茉梨は
ぎゅっと秋保の首に腕を回す。
そんな彼女の表情がとても幸せ
そうで可愛らしくて、秋保は
軽く触れるだけのキスをした。
(俺には一生、必要なんだと思います。)
そんなに大事な人‥簡単に手放す
選択肢持たなくてもいいのにな。
翌朝‥目を覚ました陽茉梨は
酔っていた時の記憶が無いようで
ベッドの横で座って眠っていた
秋保に随分混乱したようだった。
そして気持ちを口にして伝えた
ことで‥陽茉梨これからは少しは
ちゃんと想い合えてるんだってこと
自信持ってくれたらいいなと思った。
2人の距離感とかも、もしかしたらまた
少しずつ変わっていくのかもしれない。
~ひとこと~
新刊出てるのに全然気が付かず、
やっと更新させて頂ききました。
三ツ木の件でいろいろあったけど、
結果的には陽茉梨と秋保の心の距離は
ぐっと近づくことになったと思う。
あとはまあ‥今回キスだけで我慢した
秋保、今後そういう意味で苦労しそう
な気はするけど‥それもきっと大丈夫。
きっと時間をかけて解決していくはず。
お互いを大切に思う気持ちがあるからね。