
出会いは本当に偶然だったと思う。
でもそこからお互いに心の距離が
近づくのに時間はかからなかった。
優子にとって吾妻さんは、ずっと
自信がないながらも頑張り続けてる
自分を肯定してくれるような存在で
どこまでも安心できる人に思えた。
逆に吾妻さんにとって優子は、
どうにも危なっかしくて心配に
なるけれど、まっすぐで素直で
努力家で‥きっと可愛くて仕方が
なかったんじゃないだろうか。
連絡先を交換しお茶をしたりもして
‥好きって言葉や付き合うなんて
描写があったわけではなかったけど、
2人は付き合ってたのかもしれない。
でもそんな時間は長くは続かなかった。
高校で、生徒と教師として出会った。
ここで初めてお互いの立場を知った。
間違いとはいえ初対面でお酒を飲んで
いた子を未成年とは思わなかったろう。
吾妻さんも普段の感じだと随分と若く
見えたし‥社会人だと聞いていたけど
まさか学校で会うとは思わないよね‥
だからこそ、正しい選択をしなければと
わかるのに気持ちが言うことを聞かない。
それはきっと優子だけでなく吾妻さん
だってそうだったんじゃないかな。
自分の気持ちを偽ってでも、正しく
あらねばならないのが教師だった。
優子だって何が正しいかわかってて
彼の言葉に頷くしか出来なかった。
こうして間違いから始まった幸せな
時間は唐突に終わって、正しくある
ため気持ちを誤魔化す日々が始まる。

ある日、家の鍵を落としてしまって
頼れる人もいなくて困っていた優子。
頼ってはいけないことはわかってて、
消した方がいいのに消せずにいた吾妻
さんの連絡先を開いて‥謝って電話を
かけてしまったのがきっかけだった。
本当は頼りたいのに無理して大丈夫
だと言って電話を切る優子だけど、
様子がおかしいのは明らかで吾妻
さんは彼女を慌てて探してくれた。
鍵を落とし、泣いていたらナンパ
までされてて‥そんな状態の好きな
女の子放ってなんかおけないでしょ。
事情を聞いて、吾妻さんが出ていく
からと家に泊めようとしてくれた。
玄関まで来ても、迷惑をかけては
だめ、正しくいなければいけないと
優子は帰ろうと、大丈夫だと言う。
本当は全然大丈夫じゃないだろうに。
本当はこうしたいっていう気持ちと
こうしなきゃいけないっていうのが
ずっと自分の中で戦い続けていて‥
もう正しいままでいられそうにない。
でも、そんなふうになってしまうのが
『恋』ってものなのかもしれないね。

何かがあったわけではなかったけど、
優子はベッド、吾妻さんは床で寝たし
駄目とわかっていてもそんな現状に
少し舞い上がってたのかもしれない。
「その鍵って吾妻ん家の?今朝
同じマンションから出てくるの
見た。お前等付き合ってんの?」
同じクラスの阪木(さかき)くんに、
がっつり見られてしまっていた。
文化祭実行委員をやるという阪木が
突然優子と一緒にがいいと言い出した
のはこの話をするためだったのかも。
慌てて秘密にしてくれるようにお願い
した優子に阪木くんはすんなり頷いた。
阪木くん、吾妻さんとはいとこらしく
身内の不祥事を目撃してしまったから
なんとかしないとかな‥と声をかけて
くれたみたいだった、いいヤツか 笑
でもそのきっかけみたいな実行委員
の話でクラスではカップル成立とか
言われて少々騒ぎになってしまった
のは想定外の出来事だったみたい。
‥一先ず、何かするでもなく傍観
してくれるようだし、優子のいい
相談相手になってくれるといいな。
あくまで優子にとっては、だけど。

阪木くん(椋)の存在は優子にとっては
心強いものだったかもしれないけれど、
吾妻さんにとってはそうではなかった。
いとこだし生徒だし、でもそれ以前に
男なわけで、バレたことを秘密にされた
上気付いたら他の男と親しくなっていて、
大人だし教師だから、友人を作るのも中々
出来なかった可愛い生徒にようやく友人が
出来たことを喜ばなければいけないって‥
吾妻さんなりにはいろいろ考えたろう。
でも本音を言えば絶対気分は良くない。
でも出来るならそんな本音は隠して
おきたかっただろう‥年上とか大人の
プライドみたいなものもあったろうし。
そんな吾妻さんの隠したかった部分を
言わせたのは、体調を崩し学校を休んだ
吾妻さん宅にお見舞いにきた優子だった。
「私は駄目な吾妻さんも欲しい
です。つ、つらい時は頼って
ほしいし、わ、我儘だって…っ。」
独占欲とか不安とか‥優子がこんな
ことを言ったのはそういった気持から。
でもそんな気持ちを抱えてるのは決して
優子だけではなく吾妻さんも一緒だった。
男の人ってきっと、こういうこと
あまり言いたくないものでしょ?
みんながそうかはわからないけど、
多分そういう人の方が多いと思う
わけで、でも女の子的にはこういう
一面も見せてくれる相手に対して
嬉しいって思ってしまうわけで。
私が吾妻さんに惚れそうつらい 笑
‥という個人的な気持ちはさておいて、
お互いがお互いを大切にしたいと思って
いるからこそこういう我儘や本音だって
気軽には伝えられないのかもしれない。
大切だから、特別だからこそ。
ほんと恋愛って厄介だと思うけど、
それでも一生懸命恋をする人達には
頑張れって応援したくなりますね。

ちゃんと付き合い始めて初めての
デートは、阪木くんが背中を押して
くれたようなような形で実現した。
‥ところで、一体どこからがちゃんと
付き合い出した時だろう(理解力不足?)
でも偶然にも、デートで行った遊園地
に学校の生徒達が来てたようで、阪木
くんもいたことで上手く優子を生徒達の
目につかないように逃がしてくれたけど
そのままデートを続けるのは難しかった。
吾妻さんが生徒達から開放されて優子の
所へ戻ってきた時には、優子は自分を
言い聞かせるように一緒にいたかった
気持ちとか色んなものを飲み込んでいて
「帰りましょっか。ね、吾妻
さん。ほら!早く帰らないと
また鉢合わせちゃうかも!!」
そんな優子に最後に一か所だけと言って
吾妻さんが連れて行ったのは、明らかに
優子は怯えていて入ることを拒んでいた
お化け屋敷‥怒らせた?って思うよね。
まあ、ある意味起こってたんだと思う。
「ちゃんといるんだから言いたい
こと飲み込まないで言ってよ。」
「どうせ我慢なんてさせたく
なくてもさせるんだ。」
自分の気持ちを全部飲み込んで、
いい子であろうと我慢してしまう
優子を吾妻さんは甘やかすんだ。
「ていうか俺だって会いたいん
だからもっと寂しがってよ。」
こんな言葉を口にして伝えてくれるのも、
わがままな気持ちになるのは優子だけじゃ
ないって、もっと我儘を言っていいんだ
って言ってくれてるみたいで‥惚れる ←
ほんと、ときめきしかない 笑

吾妻さんの誕生日の翌日‥優子は
吾妻さんの誕生日を知ることになる。
先輩らしき生徒が吾妻さんに誕生日
プレゼントを渡すところに鉢合わせ、
間接的に知ることになってしまった。
誕生日なんて聞かれなければ自ら
申告するものでもなかったろうし、
これは本当にただ運が悪かった。
でも優子からしたら好きな人の
誕生日をお祝いしたい気持ちが
強かったろうから、知らなかった
上こんな形で知ってしまったのは
随分と悔しい気持ちだったろうね。
吾妻さんは何も悪くない、わかって
いてももやもやした気持ちが消えて
くれなくて、つい苛ついてしまう。
学校では言えなくて帰宅してから
電話でおめでとうと伝えるけれど、
その電話でもどうにもから回って
‥口にしてしまってから後悔した。
冷静でいたい、これは自分勝手な
嫉妬や後悔で、吾妻さんには何も
悪いところなんてないんだからと
頭ではわかってても割り切れない。
ほんと‥難しいよね。
きっと友達の誕生日ならこんな
気持ちにはならなかっただろう。
大好きな恋人の誕生日だからこそ、
お祝いしたい気持ちも、お祝いを
受け取って欲しい気持ちも強くて
いつまでも引きずってしまうんだ。
恋愛てほんと、難しいよね。
理性が簡単に揺らいでしまう。
理性を保って冷静にいたいのに
それが出来なくなってしまう。

誕生日の件は、完璧に自分が
やらかしたと優子は吾妻さんに
謝罪の連絡を入れ、吾妻さんも
こちらこそごめんと謝ってくれた。
優子は、それで大丈夫だと自分に
言い聞かせるけれど決して気持ちが
晴れたわけではない、カルシウム
不足だといろいろ食べまくったり、
自分の中に理由をつけて収めようと
しても気持ちはそう単純じゃない。
普通にしなきゃって思っていても
どうにもならない年の差だとか、
自分よりほんの少し近い先輩達に
対して感じてしまう嫉妬だとか‥
気持ちはぐちゃぐちゃになる一方。
そんな気持ちは態度にも出てしまい
吾妻さんを避けようとしてしまう
優子を吾妻さんは逃さなかった。
怒られると思って、謝罪を口に
しかけた優子の言葉を遮ると
「うん、どうしたの。
言ってごらん。」
大丈夫だと安心させるように
吾妻さんは優子の頭を軽く
抱き寄せてそう言っていた。
ほんっと‥いい男だなあもう!!笑
優子ばかり大人になれなくて
悔しくて恥ずかしくて‥こんな
ことを言ってくれる吾妻さんの
気持ちは嬉しかったと思うけど
優子は本当は吾妻さんにも自分と
同じ所まで堕ちてきてほしかった。
大人でなんていられないくらい
気持ちがぐちゃぐちゃになって
冷静さを保てないくらいの所に。
実際保ててないけどね吾妻さん。
きっと女子高生からしたら大人に
見えるし吾妻さんもそう見えるよう
頑張っている所もある気がするけど、
彼はきっとそこまで大人じゃない。
そういう気持ちと闘いながら、
嫉妬だってたくさんしながら
それでも優子を想いそばにいる。
それをお互いに認識し合うのは
難しいのかもしれないけれど、
不安になったらそのたびに確認
し合えばいい、喧嘩すればいい。
そうして2人で乗り越えて、また
恋人としての仲を深めればいい。
お互いに尊重しあって大切に
想い合ってさえいれば、きっと
何度でも乗り越えられるから。
~ひとこと~
最初は絵が、表情の描き方が好き
だなって所から入った作品でした!
でも実際読んでみるとそれだけで
なく心理描写に強く惹かれました。
人の感情って単純ではないし、
きっと矛盾だらけだと思います。
白だとか黒だとか、そんなふうに
はっきりしていたら楽ですよね。
でもいろんな想いがごちゃまぜで
そのどれもが自分の中にあるもの
だからこそ難しいんだと思います。
きっと恋したら、そういう矛盾が
普段以上に多くなりそうですね。
そういう心理描写が、このお話だけで
なく朝海先生が描く作品ではどれも
本当に丁寧に描かれていると感じます。
そういう所に惚れ込み作者買い
させて頂いてる作品の一つです。
興味を持って頂けたらまちがいごと、
そしてそれ以外の朝海先生作品にも
ぜひ手を出して頂けたら嬉しいです。