著:椎名軽穂 先生

あれから、ケントに言われた。
「もう考えないで、留学。
行かないでオレを選んで。」
真剣に考えてそうやって
言ってくれたことなんて、
あやねは気付いてたろう。
でも、拒絶してしまった。
本気の言葉に対して冗談で
かわすことしか出来なかった。
「オレのこと、少し
でも頭にあった?」
ケントのまっすぐな問いかけに
肯定することさえ出来なかった。
大事にしたいって思ったのに、
また本気じゃなかったのかって
自分の気持ちを否定するあやね。
…これ、どうなるんよ。
あやね、ケント…。

ケントにしてしまったこと、
後悔して、悩んで苦しんで
雨の降る中傘もささずに
立ち尽くしていたあやねを
見つけたのはピンだった。
タオルを買ってきてくれて
これ以上濡れないようにと
なぜかゴミ袋?のような
ビニール袋をかぶせられた。
「間違った」と後悔する
あやねにピンはこう言うの。
ほんとに頑張ってきた
人だから言えること
なんだろうなって思う。
そういう人なんだなって。
言うだけ言って去るピン。
風早に連絡を入れてくれた
らしく、少し後爽子とちづが
2人で迎えに来てくれた。

ずっと、自分のことしか
考えてなかった。ケントに
あぁ言われるまで自分でも
気が付かないほどに、全部
自分のことばかりで、ケント
のことが全然頭になかった。
やさしくていいやつで、
すごく大事にしてくれたのに
そんなケントに対して自分は
こんなひどいことをした。
そう後悔し続けるあやね。
こんな状況で、ほっとけば
いいじゃんって1度は突き
放したんだよ、2人の迎えを。
それでもほっとけるか!!って
ほっとかないでくれた2人。
こんないい友達そういない。
失敗した、傷つけたけど、
今から出来ることを本気で
やっていくしかないね。
…頑張れ、あやね。

ケントがずっと望んだこと。
あやねを楽にさせたげたい。
その気持ち、ちゃんと届いてた。
だから大事にしたいってあやね
だって思ってたんだよね。
ケント、拒否られて傷ついて
落ち込んで、あやねのいろいろ
思ってたこととか気持ちとか
そういうのまで全部なかった
ものみたいに思ってしまって…
だから爽子が師匠呼びを一瞬
やめた。三浦くん、だって。
あやねが後悔してたこと。
ケントを傷つけたってすごく
苦しんでることを話した。
あやねは、ちゃんとケントを
思っていたのに、同じくらいの
好きではなかったかもしれない
けど、彼女なりに精一杯に
大事にしようとしてたのに。
そんな気持ちまで否定は
してほしくなかったんだろう。
爽子、言ってくれてよかった。
ケント、今はつらいだろうけど
自分の思いがちゃんと届いてた
ってわかったんだもん…何も
なかったわけじゃなかったんだ。
あぁ、上手く言葉にならない…。

これだけの人がいて
まだ あたしはあたし
を信じられないの…?
「でも あたしは………
東京の大学に行きたい。」
誰かのせいにする
のはもうやめたい
自分を否定するのも
もう やめたい
やっと、決心ついたんだね。
きっとケントを悲しませる。
それでも、曖昧な状態で
逃げてたら何も変わらない。
今度こそ、ちゃんと本気で
ぶつかってかなきゃだね。

「忘れないでね……
ちゃんと覚えてるんだよ。」
自分1人で、東京の大学に
行くことを決めたあやね。
ケントに気持ちを伝えて
謝って、ちゃんと別れて…
1人で甘えずに頑張ると決め、
決心を必死に伝えたら、
ちゃんと分かってくれた。
ケント、ちゃんとあやねを
楽にさせてあげれてたんだって…
「オレがいた意味…あったわ…」
終わちゃったって悲しむ
反面、安心したような、
優しい表情をしていた。
しばらくはこの気持を引きずる
かもしれないけれど、これから
自分の未来の為にお互いに
頑張っていけたらいいな。
ケントは、あやねと同じ大学に
行くってずっと言っていたけど、
これからどうするんだろうね。
特に目標もない感じだったし、
インテリアだったかな?興味は
あるふうなこと言ってた気がする。
ケントも、自分の将来をちゃんと
考えられるようになるといいな。

「頑張れ!」
目指す所は高い。
物凄く頑張って、
努力してかなきゃ
いけなくなるだろう。
けど、もう逃げない。
もう迷ったりしない。
あとは頑張るだけだ。
~ひとこと~
いろいろ悩んだ。
いろいろ苦しんだ。
そしてようやく出した答え。
結果的にまたケントには
ほんと辛い思いをさせて
しまっただろう…それでも、
彼に貰った愛情を、この先の
糧にして頑張ってけたらいい。
みんな、頑張れっ!!