著:カナエサト 先生

顔を真っ赤にしながら十和子は
蓮次の頬にキスをした。蓮次は
驚いた様子で固まってたけど‥
「…ちょっとびっくりしちゃった。
冗談のつもりだったから…。」
勿論嫌だったわけではないだろう。
ただ、本当にしてくれるとは思って
なかったという意味での言葉だろう。
でも十和子は、そうは受け取らず‥
「そっそうですよね、すっ
すみません、気持ち悪いこと
して。私なんかがこんな、
ししし、失礼しました。」
自信がないから‥こんなふうに
受け取ってしまったんだろうな。
恥ずかしさから、逃げるように
急いで自宅の玄関へ急ぐけど‥
部屋に入る寸前蓮次に止められた。
誤解だと、必死に伝えてくれた。
十和子はまだまだ自信がなくて、
すぐマイナスに考えて誤解して‥
でもきっとそのたびに蓮次は必死
に気持ちを伝えてくれるのかもな。
自分に自信持てないのは仕方ない。
努力したってすぐすぐ自信が持てる
ようになるわけじゃないかもだしね。
でもこんなふうに蓮次に想われてる
ことは、自信持っていいと思うんだ。
気持ちを信じてもいいと思うんだ。

無事誤解が解けた後、待つと決めた
蓮次の中では気持ちが抑えられなく
なっていた。十和子の気持ちや行動
が嬉しすぎて、気持ちが止まらない。
蓮次から告白してしまいそうになるのを、
十和子は必死に阻止して想いを口にする。
「好きです。」
焦って、口から出てしまった言葉。
ちゃんと自信をつけて今度こそ自分
から想いを告げたいと考えていたのに、
言わされるような形になってしまって
なんだかいろんな思いの入り混じった
ような涙を流す十和子だったけど、
そんな彼女に蓮次は想いを伝えた。
「私も好き。好きよ、十和子
ちゃん。…私のためにここまで
してくれて本当にありがとう。」
玄関の外で繰り広げられたやりとり。
隣の部屋のドアが開く音で我に返った
十和子は‥無意識だったのか蓮次の
手を引いて自分の部屋へ招き入れた。
部屋の中は、今日のために‥蓮次の
ために彼女が努力し続けてきたのが
伝わってくるような光景があった。
一生懸命選んだであろう洋服達、
頑張って勉強しながらした化粧。
そして‥壁に貼られた告白するために
立てた目標の紙も見られてしまい‥
十和子は引かれてしまうって思った
みたいだけど、蓮次にとっては全て
自分のためにしてくれた努力だと
知って嬉しくないわけがなかった。
優しいキス‥そしてぎゅっと抱きしめ
られたら十和子は力が抜けてしまった。
十和子‥ほんっとに可愛いよね。
そんな彼女のそばにこれ以上いたら
本当に歯止めが効かなくなりそうに
感じたのかもしれないね‥蓮次は
十和子のおでこに優しくキスを
すると、その日は帰っていった。
なんかもう‥よかったね ♡
ゆっくり少しずつ、距離を
縮めていけばいいんだと思う。
見ているこっちは、微笑ましくて
ずっと笑顔になってしまうけど。
蓮次は抑えるのが大変かもしれない
けど‥2人のペースでゆっくりね。
お幸せに。

モエが産気づいた日、その日は
十和子の両親の命日だったようだ。
モエのそばにはマキが付き添うため
お産の願掛けもかねて十和子は蓮次
を連れてお墓参りに行くことにした。
これまでずっと引きこもって外に出る
ことも出来なかった十和子は、お墓参り
すらもマキに任せっきりだったらしい。
そんな状態から、今自分でお墓参りに
来られるように変われたのは、蓮次の
おかげだと十和子は話した。墓参りを
終え、お礼を述べた十和子はそのまま
これまで蓮次に対して思っていたこと、
たくさんの感謝の気持ちを告げた後‥
「わ…私があなたに抱いていた
感情はずっと…はじめから特別
なものでした。ずっとはじめから、
私はあなたのことが大好きでした。」
そう伝えると、蓮次の瞳から
ぽろりと一筋の涙が流れた。
「お礼を言うのは私の方よ。」
十和子はひたすら助けられてきたと
感じていたかもしれないけど、蓮次に
とっては逆に支えられ続けていた面
がたくさんあったんだろうと思う。
お互いがお互いに支え会える関係‥
それってすごく素敵な関係だよね。
きっとこれからも2人はそうやって
支え合っていけるんじゃないかな。

‥何かを覚悟した様子の蓮次。
それが何か分かるのはまだ先かな。
「今度ちゃんと言うわね。」
でも‥きっと明るい話だと思う。
わかんないけどそうならいいと思う。
十和子が蓮次のために変われた
ように、蓮次も十和子のために
変わっていこうとしてるのかも
しれないなって‥そんな気がした。

モエは無事、元気な女の子を
出産‥名前は実乃里(みのり)。
出産祝いってことだったのかな?
久々にマキ宅にみんなで集まった。
温かい雰囲気の中で‥涙もろい
マキは泣き出してしまって‥
これまで、本当にいろいろと
頑張ってきたんだろうな。
両親が亡くなり引きこもって
しまう妹‥そんな状況から全部
自分一人で頑張らなきゃって
気を張って頑張り続けてたのかも。
でも今は、十和子も少しずつ1人で
生きていけるように成長して、マキ
はモエとの間に可愛い娘が生まれ。
‥なんか涙腺緩むのもわかる気がする。
マキ、ほんとにほんとに良かったね。
この人はちょっとお馬鹿な所もある
けど、心からすごくいい人なんだよ。
だから本当に‥良かったと思った。

「…今から私達のこと皆に報告しない?」
みんなが集まっている中、少しだけ
2人になりたいと部屋を離れた2人。
その流れで、付き合っていることを
明かそうと提案した蓮次だったけど、
「し…少々待ってもらっても
よろしいでしょうか。」
十和子はあまり乗り気ではない様子。
蓮次に彼女が出来て十和子失恋疑惑
の頃かな?マキは十和子を心配して
言ったことだったろうと思うけど、
「蓮次さんに少し優しくされたから
ってそれは友情以上のものじゃないんだ。
そもそもお前とは住む世界が違うんだ。」
なーんてことをマキが言ってたことがある。
‥その言葉で余計に十和子がから回ってた
時期もあると思うと‥困った話だけども 笑
でもそうやってストップをかけてしまう程、
十和子が傷付くことを恐れ十和子を大事に
思ってきたって言うことなんだろうし、
そんなマキに話したら少なからず心配を
かけてしまうんじゃないかと十和子は言う。
実乃里のこともあり幸せ絶頂なマキに
今心配をかけるような話をしたくない。
そんなふうに思ってしまったんだろう。
十和子の気持ちを聞いて、今はやめて
また折を見て‥と蓮次は言ってくれた。
モエには報告したみたいだし、里央は
2人の様子を見てだけで勘付いていた。
そして息吹は十和子本人から報告を
されていたようだ。相談にも乗って
くれてたわけだし‥わかるけども。
でも正直、きつかったろうな息吹。
2人のことを知った上で、息吹はこの日
顔を合わせることになるこの場に来た。
十和子の笑顔を見たくてなんて‥
好きな子の笑顔は嬉しいだろうけど、
彼女をそうさせてるのは自分じゃない
他の男なのに‥絶対苦しいと思うのに。
息吹はほんと‥どこまで優しいんだ。

息吹の優しさに涙してしまう里央。
息吹にとって、気持ちを知ってて
理解してくれる人がいるってのは
唯一救いだったかもしんないな。
皆が集まる場所にピンポーン‥
と来客、それはかおりだった。
息吹からマキとモエに出産祝い、
十和子に小説‥とか諸々のお祝い
に花束を注文していたようだった。
ほんと‥息吹の気持ちに泣けてくる。
十和子に花束を渡して嬉しそうな笑顔
を向けられた息吹は‥嬉しそうだけど
辛そうにも見える複雑な表情を見せた。
かおりはそれを見て、いてもたっても
いられなかったんだろう。仕事の手伝い
を口実にしてその場から息吹を連れ出す。
でも手伝いは実は不要だったことをつい
話し、あの家での光景‥息吹を見てられ
なくて連れ出してしまったということを
つい話してしまったかおりに対して息吹
「…かおりさんって、もしか
してオレのことが好き…?」
こんな形で気持ちがバレてしまうとは。
でもテンパったかおりは、好きを否定し
なぜかストーカーであることを告白 笑
混乱と焦りで話はだいぶ遠回りしたけど、
息吹を好きなこと、好きになった理由を
伝えた。それでも‥進展を求めてたとか
でなく十和子とのことを応援してたとも。
でも‥抑え込もうとしてたって本心では
ずっとあった気持ちなんだろうと思う。
息吹を独占したいって気持ち。
かおりの気持ちを聞いて息吹は
「同じだったんだね、オレたち。」
そう言った後思いもよらぬことを言った。
「…いいよ。オレのこと独占しても。」
でもその表情は真顔と言うか何というか、
‥決してかおりの想いに心が揺れたとか
そういう暖かい感じではないように思えた。
ヤケになってるのか、それともまた、自分
以外の気持ちを優先して行動しようとしてる
だけなのか‥わかんないけどきっとそんなん
息吹もかおりも辛くなると思うんだけど‥
息吹の気持ちが動いたっていうんならいい。
すごくいいことだと思うし‥でも今の息吹は
一体何を思ってそんなことを言ったんだろう。
~ひとこと~
十和子と蓮次のお話に関しては
本当に良かったねと祝福する
気持ちでいっぱいです。でも、
息吹のことは‥心配しかない。
かおりとの最後のあのシーン、
あれは一体どうなってしまうのか。
気になって単話購入してしまいそう
になってますが、頑張って11巻が
出るまで待とうと思います 笑
もし良かったら次巻も、
お付き合いください。