著:一井かずみ 先生

馨さんはなほに話してくれた。
あのデザインをして、ちはるさんが
亡くなって…その後ちはるさんと
向坂さんの仲を邪推する噂が出て、
事務所での嫌がらせも起きていて。
そんな中の事故、背中の怪我の話。
事故だったんだろう…偶然の。
死ぬほどの怪我ではなかった
らしいけれど、その場に居合わせ
病院までおぶって運んだ馨さんは
人の死の重さと遺された者の絶望
に初めて気付かされたのだと言う。
「俺、あいつにかける言葉は
一生見つけられないと思う。」
それくらい、辛い出来事だったんだ。
同じ思いをしてみないと、決して
わからない思いを1人で抱えてきた。
かける言葉は見つけられない‥
そう言いながらも助けたい思いを
ずっと持ち続けてくれる人がいる。
向坂さんもよっぽど優しすぎる
人間だと思うけど、馨さんも
ほんといい友人…仲間?を持ったよ。

向坂さんのことは、諦めよう
と思っていた。頑張ったけど、
無理なら、もう次へ…
そう思っていたはずだった。
でも馨さんの話を聞いて、
違う思いが生まれてきた。
「消えて…しまいたい」
そんなふうに言っていた
向坂さんが今まで自分に
向けてくれた言葉や思い。
まだ、なほに出来ることが
あるのかもしれない…まだ
諦めなくて良いかもしれない。
馨さんの話に、言葉に、
なほの向坂さんへの思いは
また明白に胸に灯った。
「私、向坂さんが好きだ」
これから先、少しでも向坂さんの
心を解すことが出来ますように。
なほの思いが、届きますように…。

自分から突き放して、それなのに
余さんがなほをN.Y.に連れて
行こうとしているという話を聞き
怒鳴ってしまうほどになほを
思っていて…人は、脆いんだよ。
守る者、守ってくれる者、
向坂さんには今きっとそういう
存在、なほが必要なんだよ。
きっとそれはなほ以外には
務まらないんだろうなと思う。
結局なほは、
余さんの告白を断った。

「…好きです!!だ…
抱いて…ください…っ」
そう言えば…ちゃんと
告白したことなかった…!?
そう気付いたなほは、諦めるに
しても諦めないにしてもちゃんと
伝えておきたいと思ったんだろう。
話をしたいから時間をつくって
貰いたいと話しに行ったのに、
その場で聞いてくれると言われて
テンパった末にこんな言葉に
なってしまったのだけれど…w
「(卒業H…?)」
最初は向坂さんポカーンでしたw
「俺、告白してもらえんの?」
なほの気持ちを察して、なほが
話してくるのを待ってくれた。
“やっぱり、向坂さんが
好きだなあ…”
これが、なほの心からの思い。
なほの思いを受け取って、
向坂さんはなほを抱きしめた。

なほの告白の後、向坂さんの
携帯に着信。それは翼からで…
「助けて」
動揺する向坂さんに必死に言葉を
かけ、何かできることがあるかも
しれないと名古屋に向かった2人。
結果的には足に怪我はしたものの
命には別状はない状態で見つかる。
そんな出来事の後になって
わかった話。翼が危ない目に
あっていた時、ちはるさんが
来てくれたんだっていう。
ハルも、来ていたんだって、
きっと、幽霊だったんだろう。
心配して、来てくれたんだな。
ハルは忘れ物を見つけて、
ちはるさんと一緒にどこかへ
消えていった。そんな話。
その時の彼女は、とても
優しい笑顔をしていた。
なんかもう…向坂さんは
大丈夫かもしれないって、
そんなふうに思えた。

名古屋に行った日から、
結局告白の話はまた
改めて…ということになり、
またしばらく向坂さんとは
会えない時間も続いていた。
そんな中、余さんの計らいで
話せる時間を作ってもらえて…
向坂さんが抱えていた思い、
最近やっと気付けたこと達。
いろいろ話をしてくれた。
今まで、ちはるさんの死を
心から悼めていなかったと。
それにようやく気付いて…
「…やっと俺…あんたに
辿り着ける気がする。」
向坂さんはそう言った。
そしてやっと、向坂さんのずっと
止まっていた時間が動き出した。
~ひとこと~
いや~、なんかね、すっごい
つらい場面が多いお話です。
けど、人には大なり小なり
乗り越えなければいけない壁
みたいなもんが立ちはだかる
場面は出てくるわけで、今回の
向坂さんがずっと抱えていたのは
とても大きいものだったけれど、
きっと1人では超えられなかった。
なほがいたから超えられた壁
だったんだろうなって思います。
これから先は、ちはるさんの
死をちゃんと受け止めた上で
悲しむことが出来るでしょう。
長かった…ほんと長かった
けど、良かったと思います。
さて、最終巻どうなりますか。