どうせもう逃げられない 第9巻

著:一井かずみ 先生

どうせもう逃げられない9-1

馨さんはなほに話してくれた。
あのデザインをして、ちはるさんが
亡くなって…その後ちはるさんと
向坂さんの仲を邪推する噂が出て、
事務所での嫌がらせも起きていて。
そんな中の事故、背中の怪我の話。

事故だったんだろう…偶然の。
死ぬほどの怪我ではなかった
らしいけれど、その場に居合わせ
病院までおぶって運んだ馨さんは
人の死の重さと遺された者の絶望
に初めて気付かされたのだと言う。

「俺、あいつにかける言葉は
一生見つけられないと思う。」

それくらい、辛い出来事だったんだ。
同じ思いをしてみないと、決して
わからない思いを1人で抱えてきた。

かける言葉は見つけられない‥
そう言いながらも助けたい思いを
ずっと持ち続けてくれる人がいる。

向坂さんもよっぽど優しすぎる
人間だと思うけど、馨さんも
ほんといい友人…仲間?を持ったよ。

どうせもう逃げられない9-2

向坂さんのことは、諦めよう
と思っていた。頑張ったけど、
無理なら、もう次へ…
そう思っていたはずだった。

でも馨さんの話を聞いて、
違う思いが生まれてきた。

「消えて…しまいたい」

そんなふうに言っていた
向坂さんが今まで自分に
向けてくれた言葉や思い。

まだ、なほに出来ることが
あるのかもしれない…まだ
諦めなくて良いかもしれない。

馨さんの話に、言葉に、
なほの向坂さんへの思いは
また明白に胸に灯った。

「私、向坂さんが好きだ」

これから先、少しでも向坂さんの
心を解すことが出来ますように。
なほの思いが、届きますように…。

どうせもう逃げられない9-3

自分から突き放して、それなのに
余さんがなほをN.Y.に連れて
行こうとしているという話を聞き
怒鳴ってしまうほどになほを
思っていて…人は、脆いんだよ。

守る者、守ってくれる者、
向坂さんには今きっとそういう
存在、なほが必要なんだよ。

きっとそれはなほ以外には
務まらないんだろうなと思う。

結局なほは、
余さんの告白を断った。

どうせもう逃げられない9-4

「…好きです!!だ…
抱いて…ください…っ」

そう言えば…ちゃんと
告白したことなかった…!?

そう気付いたなほは、諦めるに
しても諦めないにしてもちゃんと
伝えておきたいと思ったんだろう。

話をしたいから時間をつくって
貰いたいと話しに行ったのに、
その場で聞いてくれると言われて
テンパった末にこんな言葉に
なってしまったのだけれど…w

「(卒業H…?)」

最初は向坂さんポカーンでしたw

「俺、告白してもらえんの?」

なほの気持ちを察して、なほが
話してくるのを待ってくれた。

“やっぱり、向坂さんが
好きだなあ…”

これが、なほの心からの思い。
なほの思いを受け取って、
向坂さんはなほを抱きしめた。

どうせもう逃げられない9-5

なほの告白の後、向坂さんの
携帯に着信。それは翼からで…

「助けて」

動揺する向坂さんに必死に言葉を
かけ、何かできることがあるかも
しれないと名古屋に向かった2人。

結果的には足に怪我はしたものの
命には別状はない状態で見つかる。

そんな出来事の後になって
わかった話。翼が危ない目に
あっていた時、ちはるさんが
来てくれたんだっていう。

ハルも、来ていたんだって、
きっと、幽霊だったんだろう。

心配して、来てくれたんだな。
ハルは忘れ物を見つけて、
ちはるさんと一緒にどこかへ
消えていった。そんな話。

その時の彼女は、とても
優しい笑顔をしていた。

なんかもう…向坂さんは
大丈夫かもしれないって、
そんなふうに思えた。

どうせもう逃げられない9-6

名古屋に行った日から、
結局告白の話はまた
改めて…ということになり、
またしばらく向坂さんとは
会えない時間も続いていた。

そんな中、余さんの計らいで
話せる時間を作ってもらえて…

向坂さんが抱えていた思い、
最近やっと気付けたこと達。

いろいろ話をしてくれた。
今まで、ちはるさんの死を
心から悼めていなかったと。

それにようやく気付いて…

「…やっと俺…あんたに
辿り着ける気がする。」

向坂さんはそう言った。
そしてやっと、向坂さんのずっと
止まっていた時間が動き出した。

~ひとこと~

いや~、なんかね、すっごい
つらい場面が多いお話です。
けど、人には大なり小なり
乗り越えなければいけない壁
みたいなもんが立ちはだかる
場面は出てくるわけで、今回の
向坂さんがずっと抱えていたのは
とても大きいものだったけれど、
きっと1人では超えられなかった。

なほがいたから超えられた壁
だったんだろうなって思います。

これから先は、ちはるさんの
死をちゃんと受け止めた上で
悲しむことが出来るでしょう。

長かった…ほんと長かった
けど、良かったと思います。

さて、最終巻どうなりますか。