著:小畑友紀 先生

そうやって、山本さんはまた
矢野の優しさにつけこんだの
かもしれないね。私は矢野が
いないと生きていけないって。
恋愛じゃない、依存。
そんな関係は、誰も幸せになんか
出来ないよ、矢野も、ナナも
山本さんも、幸せになれない。
ナナは1人で泳げるんじゃない。
矢野のために、矢野との未来の
ために1人で泳げるように
努力して努力して、生きてきた。
山本さんは、矢野の優しさに甘えて
努力する気もなく、溺れてれば
助けてもらえるって思ってる。
なんで、矢野はこんなに優しくて
弱い人になってしまったんだろう。
最愛の人を失って、唯一の肉親
母親をも失って…人の死に
臆病になってしまってる。
山本さんは、最低だ。

「ごめんなさい、受け取れません」
これで、ここで決断したらやっと
17歳の矢野と、記憶と決別できる。
そう、思っていたはずなのに、
その思いとは全く違う言葉が
口から出てしまっていた。
やっぱり、出来ないんだ。
ナナの記憶に、心にいる矢野は
決して薄れることはないだろう。

「だって彼は、嘘をつきとおすから。」
矢野のことだ、嫌いかどうかは
よくわからないけど、
愛情は一切無いだろう。
それでも今は山本さんといる。
そんな状況で、ナナに合わせる
顔なんてなかったのかもしれない。
それでも、心の中にあるのは、いつ
だってあの頃のナナだけなんだろう。
いつの間にか、奈々さんではなくて
ナナでいっぱいになってたね、矢野。
お互いこんなに大好きで大切で、
なのにどうしてここまですれ違って
上手く行かないんだろうね…。

「お別れの言葉をちょうだい。
キレイに終わろう。」
旅行にいく矢野を探して
空港まで来て、やっと再会して
最後の、けじめをつけようと
したのかもしれない…。
矢野は、やっぱり変わらない。
ただ少し本音が言えなくなって、
本音を隠すことが上手になって、
自分を犠牲にすることを
覚えてしまっただけ…。
このままで、いいわけない。
2人の間で終わらせようと
したって、矢野はまた本音を
全く言ってくれていないのだ。
昔みたいに、奈々さんを思い続けた
あの頃のように、ちゃんと
本音で話さなきゃ意味が無い。

うん、嘘ついてるんだ。
ナナの願いかもしれない。
でも実際そうなんだよね。
お願い、決して諦めないで欲しい。
山本さんとナナは違うんだ。
ナナなら、矢野を幸せに出来る。
~ひとこと~
本心と自分の行動なんて
結構裏腹なもので、こう
したいってのがあっても
こうしてはいけないって
理性がストップを掛ける。
矢野は、大きすぎる罪悪感と
共に生きているせいで、
自分の意志なんて、思い
なんて二の次三の次…。
ナナは昔からかわんないね。
どこまでも真っ直ぐだよね。
ナナ、どうか、あの頃のように
また矢野の心を開いてあげて。