僕が僕であるために。 第8巻

著:葉月抹茶 先生

駿の引っ越しが決まり、残り少ない
時間で出来ることをしようと駿は
随分積極的に行動するようになる。

駿の誘いで紗奈と2人で遊園地
デートを満喫していたその頃‥

康平は4年ぶりに走っていた。
やめてしまった陸上をまたやる
覚悟を決めたというわけではなく
少し感覚を確かめたかっただけ。

だからこそ公園に人がいないのを
確認して走っていたのだけれど、
気づくとすぐそばに来ていた千尋。
意図せず走っていたことがバレる。

「きっと美雪ちゃんも喜ぶと思…。」

喜んでこのことを美雪に伝えてしまい
そうな勢いの千尋の言葉に被せるように

「見られたのが菜嶋じゃ
なくてよかったわ。」

康平はそう言っていた。

これまで陸上をやめた原因は怪我
だということにしていたらしいけど、
実際はもっと厄介な原因があった。

怪我をしたからと言って、やめる気は
なかった康平が聞いた先輩達の言葉。

妬みや嫉妬で康平が文句を言われた
だけならきっとそこまで気にせずに
いられたかもしれないけど、そこで
美雪を標的にするような先輩達だ。

あのまま陸上を続けていたら美雪が
どんな目に合わされていたか‥怖い。

康平は美雪をかばってやめたなんて
言わないしきっと思ってもいない。
でも続けていく限りあんな先輩達に
振り回されるわけで、そこまでして
続けたいほど陸上を好きじゃないって
‥そう思ってやめてしまったみたい。

想像してた以上に面倒な理由だった。
今更その先輩を恨んでも仕方がない、
かなーり恨めしいと思うけども 笑

ここでようやくあの頃手放してしまった
走ることと向き合ってみようとしてる。
次はもう、康平がもう走るのは満足だ
って思えるまで走らせてやりたいな。

康平と千尋が話していると聞こえて
来たのはデート帰りの駿と紗奈の
楽しそうな話し声‥とっさにそんな
2人を千尋に見えなくするように、
千尋の頭を抱きかかえしゃがみ込む。

最初は本当にとっさの行動だったと思う。
でも結局は2人のことをしっかり見て
聞いてしまってた酷く苦しそうな表情で
気づくと康平は千尋を抱きしめていた。

ほんの少しして、ごめんと謝ると
帰ろうとその場を去っていく康平。
千尋の前では平然として見せてた、
でも家に帰った途端これだった 笑

「駿に感化されるぎてんのかな…。」

それはあるかもしれないけれど、
康平って好きな子いるんだろうか?
過去にそういう描写ありましたっけ?

読み返してみないとわからない程度には
記憶にないので、もしかしたらこれまで
そういうのは描かれてなかったのかも。

だから一つの可能性でしかないけど、
康平は千尋を好き、または好きになる
という可能性もあるんだろうなって。

もしそうなったら千尋は困るかもね。
これ以上友情がこじれてしまうような
ことにはならなければいいんだけど。

「お前もちゃんと行動しろよ。
…ようやく動き始めた俺が言う
ことじゃねーと思うけどな。」

少しずつでも動き出した康平、そして
千尋との別れ際に言ってくれた言葉は
千尋が動く決心をするきっかけになった。

その日のうちに駿に連絡をして、
翌日会う時間を作ってもらう。
連絡している時も、待ち合わせ
場所の公園で待っている間も、
不安で仕方がない千尋だけど‥

これまでのこと、駿にだけ上手く話せず
失礼な態度をとったと申し訳なく思って
てずっと謝りたかったこと、そんな自分
にも普通に話しかけてくれる駿の行動が
本当に本当に嬉しかったこと‥今まで
思っていても伝えられなかったことを
少しずつ、一生懸命に伝えていた。

そして一つお願いがあるのだと、
勇気を振り絞って口を開いた。

自分の気持ちと行動が伴わない、
相手を不快にさせてしまってるかも
しれない不安と闘いながらも自分で
制御できなくて苦しかったろうね。

それをきちんと伝えた上で、駿と
仲良くなりたいってやっと言えたね。

本当はもっと奥にある強い気持ちが
あったかもしれないけど、今の千尋
にはこれが精一杯だったみたい。

「うん、俺でよければ。」

そんな千尋に駿は優しい笑顔でそう言う。
仲良くなるには‥きっともうほとんど
時間がない、後少しで駿は引っ越して
遠くに行ってしまうんだろうから。

伝えてないから、そんなこと考えも
してないだろうけど‥少し寂しいね。
でも引っ越す前に気持ち伝えられて
一先ずは良かったんだろうと思う。

千尋を残し駿は先にその場を去る。
見計らったかのように現れたのは
康平‥ここは昨日康平が走ってた
公園だ、いてもおかしくなかった。

走ろうとしたら千尋を見かけて、
見守ってくれてたのかもしれない。

「お前はよく頑張ったと思うよ。」

そんな康平の言葉に緊張の糸が
とけたように泣き出してしまう
千尋に康平は何かを言いかけて‥

「柿原…俺……。」

慌てて走ってきた美雪によって
言葉の続きは聞けずに終わった。

「ちょっくら走ろうかと思って。」

これまでの出来事を知らない美雪から
したら、康平が千尋を泣かせている
図に見えたようで一先ず責められた 笑
ちなみに突然美雪が現れたのは、今朝
千尋から意味深なメールが来ていて
家にいないからと心配になって今まで
探し回ってくれていたようだった。

事情を話して美雪も状況を把握して、
自分はもういなくていいかなとそこを
去ろうとする康平を美雪が呼び止める。

「康平はなんでここにいたの?」

話す気なんてなかった、でもいつかは
話すべきことだったのかもしれない。
そんな康平の背中を押したのは確実に
先程まで震えながら泣いていた千尋。

「…実は、ちょっくら
走ろうかと思って。」

結構勇気がいったろう、これまでずっと
その話題を避けてきたんだろうから。

でもそれを聞いた美雪は少し驚いた後、
すごく嬉しそうな笑顔をみせてくれた。

話して、よかったじゃないの。
まだ陸上をやめた理由は話してない、
いつかは話す時が来るんだろうか‥

私だったら、もう話したくはないな。
美雪も聞いても苦しんでしまいそうだ。
それとも怒るかな、そんな理由でとか。

せっかくみんな前に進んでるんだから、
落ちるきっかけにはなってほしくない。
あとは康平が伝えたいか、美雪が聞き
たいか、そんな気持ち次第なんだろう。

先に千尋を家まで送っていき、
残るは美雪と康平2人の帰り道。

「…私も変われてるのかな。」

突然そんなことを言い出す美雪に
康平は変わるべきところなんて
ないんじゃと言いかけて‥その後
美雪の予想外の行動に固まった。

「今度こそちゃんと気がすむ
までやりきりなさいよ、じゃあね!」

美雪さんめっちゃ言い逃げしてる 笑
取り残された康平は1人で大混乱です。

美雪は、自分も真剣だってことを康平に
伝えたくて‥でもそうしたら言葉で伝える
んでなく身体が動いてしまってたみたい。

でも相変わらず美雪は康平から見ても
男前でかっこよくて‥だからちゃんと
女子なんだって思ってもらうためには
ちょうどいいきっかけだったかもね。

‥ほんと可愛いな2人とも 笑

きっかけは些細なことだった、駿は
タイムカプセルを埋めたあの場所を
掘り返そうとして、声をかけられた。

「ここにないのは本当だよ。」

声の主は優、タイムカプセルに
ついて何かを知ってるみたいで、
全て話すからその時歩も呼んで
ほしいと、翌日に会う約束をした。

予想外に紗奈までついてきてしまい
優は本当は伝える気がなかったかも
しれないことも話すことになった。

タイムカプセルを移動させたのは
優本人だったということがわかる。
でも問題はその理由‥これが紗奈
に関係していることだったみたい。

駿がいなくなってから紗奈は酷く
不安定になった、変わってしまう
遠ざかってしまうようなみんなの
関係を繋ぎ止めようと必死だった。

その頃、タイムカプセルを埋めた
場所に通って誰にも言えずにいた
思いなのかな‥タイムカプセルに
話しかけるみたいにして話してる
紗奈を優は見つけてしまったんだ。

みんなの前では必死で明るく振る舞う
紗奈が1人でそんなふうに苦しんでて、
そんな苦しみから開放してあげたくて
選んだ行動が、タイムカプセルをこの
場所から持ち去ってしまうことだった。

紗奈にとっては複雑な思いだろうね、
気持ちは嬉しくても、素直にお礼を
言えるような気持ちではないかも。

でもああなるまで自分を追い詰めてた
紗奈が変わる最初のきっかけを与えた
のは、優だったのかもしれないね。

このまま駿がずっとそばにいてくれる
ならきっとこれで良かったと言える。
でも今は帰ってきてくれて傍にいる駿は
もうじきまたいなくなってしまうんだと
わかってるからこそすごく不安になる。

一通り話を聞いていた所で歩が
口をはさむ‥確かに今聞かされた
のはあくまで紗奈や駿達との昔話。

当時から優とは知り合いでもそれ
以外とは面識すらなかったであろう
歩には関係のない内容に思えた。

でもそのタイムカプセルの在り処、
それが歩がずっと片想いをしている
優のお姉さん・遥さんの元にあって
それを優は歩に取りに行かせるため
この場所まで呼んだようだった。

これまで、何ともならない歩の思いを
断ち切らせるために行動し続けていた。
今になって歩の気持ちに決着をつけさせ
ようとでもしてるというのだろうか?

歩は、今更動けるのかな。
ちょっと酷な気がするけど
歩が前に進むためにはきっと
必要なことかもしれない。

離れた所で歩の気持ちは決して
冷めたりしてくれなかったから。

今は苦しくても、前に進む
チャンスなのかも知れない。

~ひとこと~

「今紗奈に触ってもいい?」

焦るあまり悩みすぎてそんなことを
言い出した駿に全力でテンパる紗奈‥
紹介できませんでしたがあのくだりは
本当に萌えましたぜひ読んでほしい 笑

やっと動き出せた、やっと謎だった
ことが、その理由が明らかになった。

これからだってところで次で最終巻。
終わらせてしまうには早すぎるように
感じてしまって少し寂しく思います。

でもきっと素敵な最後が待っていると
信じて続けて紹介させて頂きますので
良かったらまたお付き合い下さいね。