著:葉月抹茶 先生

「もし…駿くんが紗奈ちゃんのこと
が好きだとしても私はちゃんと
駿くんとお話してみたい。
話せるようになりたい。」
なりゆきで紗奈を愛しそうに見つめる
駿を見てしまってからずっと心の中に
あった思いを康平に相談することに。
なにか悩んでいるようだと話を聞く
ことにしたのは康平だったけど、
まさかここで突然千尋が駿を好きだ
なんて知るとは思わなかったろう 笑
駿は傍から見ても紗奈のことを好きだと
丸わかりで、それなら早いうちにと諦め
させることも考えた様子だったけど、
再会する前、ずっと昔から駿を好き
だったこととか、再会してちゃんと
話したくて頑張ってきたけど駿と
だけ未だに上手く話せないこととか‥
そんな現状で千尋はちゃんと話せる
ようになりたいって‥両想いにとか
付き合いたいとかじゃなく話したい
っていうのが彼女の中に強くある
思いで‥こんな顔をされてしまって
康平はもう余計なことは言えなかった。
「…がんばれよ。」
康平はただ、それだけ千尋に伝えた。
話したいだけ‥それなら悩む必要も
なければあの時あんなに複雑な思い
を抱くこともきっとなかったはずだ。
今は話せるように頑張ったとして、
それが無事達成されてもきっとまた
違う悩みを抱えることになると思う。
恋って悩みが絶えないからね 笑
ましてや好きな子がいる人を好きに
なった時なんて‥いくら頑張っても
辛い思いをするのは目に見えていた。
恋愛って、ほんと大変だよね。

夏休みの宿題をもうやりたくないと
紗奈から嘆きの連絡をもらった駿。
いろいろあって駿と紗奈と歩3人で
康平のバイト先に集って宿題をする
ことになったけど、最終的に宿題は
いまいち進まずに時間は過ぎていく。
少しの間駿が席を立つ、歩相手に緊張
してしまいがちの紗奈も勇気を出して
ずっと気になっていた質問をしてみた。
「歩くんってその…
好きな人とかいるの?」
席のすぐ近くまで戻ってきていた
駿は慌ててとっさに隠れてしまう。
歩の答えは、一応いる。でも紗奈が
知ってる人かと言う質問に対しては
それはちょっとわからないと答えた。
ずっとメニューで顔を隠したまま話を
していた紗奈は、歩の返事を聞くと
立ち上がりトイレに行くと席を離れて
いったけど‥自分から聞いたことだけど
ショックが大きすぎたんだろうなきっと。
隠れていた駿を見つけて振り返った
紗奈はちょっと困ったような、今にも
泣いてしまいそうな表情に見えた。
実際の所紗奈が好きになった歩は中身が
駿だったわけで、両想いなわけで‥でも
今思い切りすれ違いになってしまってる。
入れ替わることは最近減ってきたし駿は
少しずつだけど自分のままで紗奈に
接することができるようになってきた。
‥もう、最近ただただ紗奈が可哀想だ。
駿が最初から歩に頼らず自分で頑張って
たらこんな思いはさせなかったんだから。

その日、いい時間になったのか3人は
店を出た。帰り道先に歩が別れて駿と
2人になると紗奈は質問をしてくる。
歩に好きな人を聞いた時に、歩は
前に駿にも好きな人がいるか聞かれた
ってことを言っててそのことについて
なんて言ってたか聞きたがったのだ。
「紗奈はその…歩の好きな
人のこと気になるの…?」
その質問に対して、駿は質問で返すと
こんな顔して気になると言われたら、
駿はどれだけ複雑な思いをしたろう。
名前とかは教えてくれなかったけど
優の名前を出していたということを
紗奈に教えると、紗奈は思い出した
ように優にはお姉さんがいたと言う。
やっぱり、そのお姉さんが遥さん‥
あの身体の弱そうな女性なのかな?
そんな会話の後、紗奈は歩は恋愛
とかに興味なさそうな気がしたから
ちょっと聞きたくなったと言った。
確かにそんな印象はあったけど、紗奈が
聞いてきた理由が本当にそれだけなのか
‥駿はいまいちすっきりしない気持ちで
紗奈と別れて1人帰り道を歩いていく。
(紗奈…俺の好きな人の
ことは気になりませんか?)
なんだかんだいい感じだと思ってた。
でももしかしたら全然そんなこと
なかったんじゃないかと漠然とした
不安を抱えたまま夏休みを終えた。
歩の方の話は相変わらず謎が多い。
なんか、説明しにくい事情とかが
あるのかな‥歩はなんでか1人で
闇を抱えたようなとこあるよね。
事情がわからないけど、いろいろと
はっきりしないままでモヤつく 笑

漠然としたままの不安。
不安を払拭したい駿は、本来の
目的とは全く違った理由で歩と
入れ替わろうなんて考えてしまう。
夏休み中最後に会った時の、
あの質問の意味や表情だって
駿の中で何一つ解決してない。
結局は、入れ替わらなかったよ。
思い留まったんだから大丈夫だと
言ってあげたいけど、駿はそんな
ことを考えてしまったことでまた
自分を嫌いになってしまいそうだ。
ちょっと様子がおかしい駿に対して
無邪気に話しを聞こうと寄ってくる
紗奈に、ちょっときつい言い方をして
一緒の帰り道から1人引き返した駿。
その結果紗奈を怖がらせてしまった。
なんだか、悪循環だらけだよ。

不安でいっぱいだった駿はある
日、酷い悪夢を見てしまった。
幼い頃、自分が引っ越してしまう
ことをひどく悲しんでいた紗奈。
でも成長した紗奈は歩がいるから
駿は戻ってこなくていいと言う夢。
うん、絶対そんなこと言わないわ。
そう思うのに、ここ最近の不安は
どんどん駿の思考をマイナス方向へ。
でも様子のおかしい駿を心配して
紗奈が助けになろうと必死になる。
「私で良かったら何でも言って
欲しいな。もし私じゃあれ
だったら康平くんとかでも!」
そんなふうに言われてしまい悪夢
を理由として伝えた駿だったけど、
紗奈はぷっと吹き出して笑った。
あの夢の内容に関しては、紗奈が
自分のことを心配してくれてたって
ことだけでも十分なことだったろう。
それ以外のことはまだ何も解決して
いないけれど、逆に紗奈が見た悪夢
の話を聞いて駿も笑い少しだけ明るい
気持ちになれたんじゃないだろうか。
そうして少し落ち着いて、紗奈に
少し質問をする。あの夢の内容にも
関係する内容だったかもしれない。
もし駿がこっちに戻ってきた時に
眼鏡じゃなかったらどうなってたか。
これが駿の質問、クラスの連中には
歩と見分けがつかなくなったろう。
でも紗奈は見分けがつくと言った。
もちろん、当然でしょって。
そう、実際見分けついてるんだよね。
たまに混乱するけど、紗奈が好意を
向けているのはいつも駿だったから。
入れ替わった時に答えられなかった
ことがあるし本当に?と聞き返された
時に紗奈は言い淀んでしまったけど、
本当に見分け付いてるんだけど‥
駿はあまり信じてくれなかった。
さらには、また1人で迷走しそう
になってしまっている気がする。
真正面からぶつかっていかないと
駿がどこか逃げ腰なままじゃきっと
また悪循環を起こすんだろうな。
どうか、この連鎖に終止符を。

夏休みがあけたある日、優が駿の家
まで遊びに来た。そんな話の流れで
優のお姉さんの話が出てきたので
どんな人だったか‥とか詳細を少し
聞いてみる駿だったけど、予想外に
たくさんのことを知ることになる。
まずは、前に歩と駿が入れ替わって
いることに気づかれたその理由で、
あの時駿のフリをした歩の制服には
優のお姉さんが歩にプレゼントした
というネクタイピンがついていた。
だから簡単にバレたんだという。
そしてそのネクタイピンは彼女が
2人の中学入学祝でくれたもので、
その時優は筆箱をもらっていた。
じじくせーなんて言ってた優だけど、
歩はそれを大切そうに受け取った。
その頃は優も知らなかったこと
だと思うけど、後になってから
歩はずっと遥さん(姉)のことが
好きだったと知ることになる。
それは姉が結婚した時のことだ。
8つも上なんだって、ずっと2人目
の弟みたいに思われてるうちに
他の人の所に行ってしまったんだ。
表向きは遥さんの結婚を祝福して
いたけれど、ずっと様子がおかしい
歩に優は白状させたらしかった。
「ずっと俺の姉ちゃんのこと
が好きだったって、もう何年も
ずっと俺の姉ちゃんのことを
そういう目で見てたって。」
でも、それで優は歩を嫌いになったの
かと聞いてみれば、真実はそこまで
単純なものではなかったみたいだ。
ちゃんと離れられるように、別に歩を
嫌いだなって思ってないのに嫌ってる
ような態度を今も取り続けているんだ。
彼なりに考えて出した答えだったろう。
複雑だなあ‥昔は仲良さそうだった
から余計に、でもそれ以外の方法を
思いつかなかったのかも知れないね。
いきなりの情報量、でも少しだけ
歩があんな感じの理由も、ほんの
少しだけ分かるような気がした。

優から話を聞いた駿は、ただ
立ち止まってうじうじしてる
自分を恥ずかしいと思った。
そして歩とちゃんと向き合おうと、
2人だけで話をしてみる決意をした。
そこで優から聞いた話を伝えると、
歩は何でもないように笑いながら
すっぱりと諦められなかった理由を
困ったような笑顔で教えてくれた。
優達姉弟に会ったばかりの頃の歩は全然
喋らなくて友達もいなかった。でもそれは
他人に興味がなかったからそうなってた
んだけど、たまたま近所だった2人と
会って、随分と世話焼きだった遥さんに
いろんな所へ連れていかれるようになる。
別に1人で良かったのに、一生懸命に
自分を楽しませようとしてくれる姿を
見ていたら、自分も遥さんのことを
喜ばせてあげたいと思うようになった。
それがきっかけで、彼女が喜ぶから
よく話すようになり、似合うと言われ
たから髪を短くして、彼女に釣り合う
ように勉強を頑張るようになって‥
高校生くらいになって真剣だって
伝わるようになったら告白しようと
思ってずっと頑張ってきたのに、
彼女は他の人のものになった。
それでも、
今の歩は遥さんに影響されて生まれた
ものだったから、簡単に諦めて忘れる
なんてことできなかったんだって。
「俺にあと何が足りなかったんだろう
って考えた時にやっと気付いた。最初
からそういう運命だったってことに。」
最後に歩は、叶わなかったそれを
運命という言葉で片付けた。
どれだけ頑張った所でどうにも
出来なかった現実を、結局はなる
ようにしかならないと終わらせた。
歩の話を聞いた駿は、すごく辛い
ことだとは思いつつもこれまでの
努力が無駄なんて思いたくなかった。
ここで初めて、昔からずっと紗奈の
ことが好きだったことを打ち明ける。
見た目がそっくりなこと以外は全部
歩の方が上に感じて嫉妬してたことも。
でも駿はまだ諦めようとはしなかった。
もし運命ってものが最初から決まってて
それが自分にとって悪いものだとしても
その結果が出るまであがくこと、努力
し続けることはできる‥もしかしたら
それで未来が変わるってことだって、
少しくらいあってもいいと思うんだ。
なるようにしかならないと心のなかでは
思いながらも、歩は駿の言葉にわかった
と頷いてくれた。歩が変えられなかった
運命‥駿がいい未来に変えて見せてよ。
そうしたら歩も、もうちょっと前向き
に考えられるようになる気がした。
~ひとこと~
歩と話をして、駿はちゃんと前を
見据えられたような気がした。
そんな帰り道、ばったり紗奈と
会うことになった‥頑張る決意を
した直後だけど、駿はどうするか。
それはまた次巻でのお話ですね。
かなりお久しぶりの更新になり
お話忘れちゃってたので思い出し
ながらのレビュー失礼しました 笑
この子達はほんと‥噛み合わないな。
でも6巻でやっと少し前に進むことが
出来た気がするので7巻ではもう少し‥
続けてレビューさせて頂きますので
良かったらまたお付き合い下さい。