どうせもう逃げられない 第6巻

著:一井かずみ 先生

どうせもう逃げられない6-1

いきなりどうしてこんなことに
なっているかというと…

1巻で名前だけ出しました島津くん。
なほに嘘の面接日を教えてきた彼。

裏切り者だった彼は今悠々と
なほが受かる予定だった職場で
働いているんですが…そこは
ソロ・デザインとも取引のある
所で、今回余が関わっていた
仕事の担当が島津くんに
変わっていて…そこでなほに
あまりに馴れ馴れしい島津くんに

「野田蔵は俺の彼女なんで」

なんてウソで黙らせたんです。
それを結婚するんじゃないかなー
なんてテキトーに噂を流した
島津くんのせいでこんな感じに
そこら中に噂が広まっていた。

なんだかとってもややこしい
ことになってしまっているわ。

島津くんのせいで変な噂に
なり、でもウソを撤回すると
また面倒なことになるので、
しばらくは付き合っていると
いうことにしておくことに。

どうせもう逃げられない6-2

今度ゆっくり話そう…そう言って
いたその日がやって来ました。

向坂さんはなほの好きって
気持ちを誠実に受け止めて、
きっと今出来る限りの思いを
伝えてくれたんだと思う。

簡潔に言ってしまえば、
つき合うことは出来ない。

どうでもいい人に対してなら
演じることもできたろうが、
なほに対してはムリだから、
それを望むなら諦めてほしい

そんな内容を告げた後に、

「ただ あんたが望むなら」

と付け加えて言われた。
なほに対する思い、そして
向坂さんの本心からの願い。

「私 好きになって
迷惑じゃなかったですか?
うっとうしくないですか?」

そう言って涙するなほに

「…もう少しだけ
待っててくれ
…好きだ」

向坂さんはそう言った。

偶然、これを聞いてしまった
余さん…ちょうどこの時、
針馬さんからN.Y.への
引き抜きの連絡が来ていた。

タイミングが最悪だ…。
余さん…どうするんだろ。

どうせもう逃げられない6-3

あの話をした日から、
向坂さんはとても優しくなった。
すごく女の子扱いというか…

何度か食事に行って、
帰りは手を繋いでくれて。

嬉しいけれど、今までの
向坂さんじゃなくなって
しまったようで、なんだか
寂しく感じてしまっていた。

「俺に懲りずについていてくれる
あんたに 俺はどうしたら
少しでも報いてやれる?」

向坂さんの態度の変化は
自分がなほにさせている
のはただの無理強いだから、
少しでもその思いに報いたい。

その報いのつもりで、
出来ることを一生懸命して
いたって感じだったんだろう。

そんな彼になほは”あほ”って
言葉を求めた。普通に考えたら
なぜそうなったってなるかも
だけど、なほにとってあほって
言われるのはすごく特別で、
ここにいていいよっていう
ふうに思える言葉で…だから
こんなふうに言ったんだろうな。

『その日から 向坂さんの”あほ”は
私のもっともっと特別になった』

なんか…すごく切ないな。

どうせもう逃げられない6-4向坂さんがいない間、
いろいろあったんですよ。
あまりに胸くそ悪いんで
詳細は書きませんが…また
あの島津くんがやらかした。

あまりに最低すぎて…ないわ
って感じに、なほを傷つけた。

そのタイミングで、向坂さん
いつからいたんだろう…
彼の言動に、行動に怒り
島津くんをぶん殴ってきた。

なんかね、島津くんに非が
あるのはそこにいた全員が
わかってた話で、その場は
丸く収まったのだけれど…

今までこんなふうに理不尽に
自分のせいにされることを
否定もせずに諦めてきたなほ。

そんな彼女だからいろいろと
厄介事に巻き込まれやすいんだ。

そんな彼女に守らせてと
言う向坂さんが、俺から
自分を守れとも言う。

…なんともな。

どうせもう逃げられない6-5

余さんは、向坂さんにこんな
ことを言っていたみたい…

こんなことを言われたから、
今更になって向坂さんはなほを
突き放すようなことを言った。

「俺といる時間は あんたに
とって無駄なんだよ」

言った後、ハッとして
ごめんなんて謝って。

未来のない関係。
無駄…なのかもしれない。
けどそんなことはなほだって
わかっていて今の状況を選択
した、ちゃんと分かってた。

余さんにあんなこと言われて
苦しかったんだろうな…。
それでちょっと八つ当たり
みたくなっちゃったんだろう。

ほんと…複雑、つらい。
こんな状況の2人の心境を
考えると…とてもつらい。

どうせもう逃げられない6-6

日帰りで名古屋に行った。
向坂さんのプライベートな
用事に、無理言って同行
させてもらったという話。

なのに雨に振られて、まぁ
いろいろ会ってなほは熱を
出して倒れてしまった。

仕方ないからホテルをとり
その日は泊まることに。

そこでね、寝付いたなほが
寝言で言ったんだ…

一人にしならないでって。
ソロ・デザインに来るは
ずっと派遣で、ずっと1人で
寂しい思いばかりだったろう。

ソロ・デザインに来てから、
向坂さんに会って、やっと
1人ぼっちじゃなくなった。

向坂さんが1人になったら、
また自分も1人になっちゃう。
そういう思いもあったのかもね。

熱で弱っていたからこそ出た
弱音だったのかもしれない。

~ひとこと~

とても温かく、でも寂しい。
今の2人はそんなふうに見える。

進むに進めない関係。
守るのも一苦労ですよ。

今の関係になってから、
向坂さんはなほに
触れてこなくなった。

頭をなでたり抱きしめたり
手を繋いだりはあっても、
キスとかそういうことは
全然しなくなっていた。

しちゃダメだって、
そう感じてたんだろう。

そういうのから自分を
守れとなほに言って。

でもなほの弱音を聞いて
向坂さんは眠るなほに
キスをした。

気持ちだけで言えば、
ほんと好きで、大切で
仕方がないんだろうな。

その日の名古屋は
一瞬だけ雪が降った。

…嫌な予感しかしない。