著:イノウエ 先生

「貴女は私の――…世界で
たった一人の友達だから。」
シャロンと坊ちゃんの母・ガーベラが
主従の関係でありながら今のような友人
関係になったのにはきっかけがあった。
ガーベラの子供時代はひたすら親に
引かれたレールを進むのみの生活で、
両親からの過度なプレッシャーを背負い
友人すらつくらせてもらえず学校では
ひたすら学び、学びを終えて18歳になる
と親に勧められた人と結婚して、出産。
そんな育ち方をしてきたから、彼女は
人との関わり方がよくわからないままに
大人になり結婚し子供を授かっていた。
旦那さん(ヴィクトルおじい様の息子)は
いい人だったようだし、彼女の中で
何か不自由があったわけではない。
それでも何かが満たされない‥
そう感じていた時になんというか、
ちょっとおもしろい出会い方をした
のがガーベラとシャロンだった 笑
当時もシャロンは相変わらず明るくて
アリスにまっすぐに愛情を注いでいて
周りにも人気があるメイドだった。
子供にもきつい言い方をしてしまう、
友達がいたころがない、人との関わり
方がわからない‥そんなガーベラが
ある日シャロンに相談を持ちかけた。
「じゃあ、私がお友達
第一号になりましょうか?」
本来ならメイドがこんなことを言う
なんてことありえないよねきっと 笑
それでもシャロンがこんな提案をして
くれたから、ガーベラも今までずっと
足りなかった何かに気づけたんだろう。
ガーベラにとって、シャロンは唯一
自分を見せられる友人だったろうな。
‥突然消えてしまった時、ガーベラは
どれだけつらい思いをしたんだろう。
この先の不安が消えたわけではない。
それでも今また2人が再会できたことを
心から良かったなと、改めて思った。

坊ちゃんが熱を出し寝込んだ日、
とことん甘やかしながら看病して
くれるアリスに対して、やっぱり
好きだなって気持ちが大きくなる。
アリスが坊ちゃんとのことに前向きに
なれないのはメイドだからとか立場を
気にしてのものだと思ってたんだけど
シャロンのことがあったからなのね。
アリスのことが大事だからこそ
坊ちゃんは主従関係を崩せない。
坊ちゃんのことが大事だからこそ
アリスは坊ちゃんの家族との
繋がりを壊してほしくない。
お互いに両想いなのに、両想い
だからこそ前に進めなくなってる。
苦しいね、先は長いかもしれないけど
坊ちゃんが家長を継いだ上でアリスと
恋人になり結婚するような未来が‥
可能なのかはわからないけど、
あったら良いなと願います。
こんな熱のせいかネガティブになって
しまう坊ちゃんは、人の思考が読める
シャーデーのことを考えていた。
私の中では恐ろしい魔女という印象が
強すぎてこんなふうには思えなかった。
でももし人の思考が読める能力が
彼女の本意ではなかったとしたら?
(思考を読む…その能力を持つには
純粋すぎた人だったのかもしれない。)
思考が読めてしまったせいで、
辛い思いをしたのかもしれない。
誰と関わっても本音と建前が
違うことばかりで、誰のことも
信じられなくなかったかもしれない。
そう考えたら、思考が読める能力
自体がシャーデーにかけられた
呪いのように思えてしまった。

ヴィオラはロブに会いに別邸に来た。
貰った物を捨てられず大事に置いてる
ロブの部屋は物だらけで、そんな中
からヴィオラはオルゴールを見つけた。
「I will love you forever and ever」
そう箱の底に書かれたオルゴールは、
ヴィクトルおじい様が奥様との結婚
記念日に贈るため手作りした物だった。
二人が亡くなってからロブが譲り受けた
けど、奥様が亡くなった時の気持ちが
蘇ってきてしまうため聴けなくなった。
ロブがこの屋敷で執事になったのは、
おじい様とその奥様2人がきっかけで
過去にどんな思い出があったのかは
わからないけどきっとすごく大切な
思い出、大切な人達だったんだろうね。
でもそんな話を聞いたヴィオラは
だったら尚更とでもいうように
オルゴールのネジを巻き流した。
オルゴールの音色を聴きながら、きっと
ロブはいろんなことを思い出したろう。
大好きだった主人達との沢山の日々を。
「ロブは二人のこと大好きだったんだね。
苦しいね。大丈夫だよロブ。大丈夫。
あたしが一緒に聴いてあげる。」
こんなふうに言ってくれる人がいる
ってのはすごく大きいんじゃないかな。
亡くなった人はもう帰ってこないし
辛かったり苦しかったりする思いは
どうしたって思い出してしまうだろう。
それでも、ヴィオラの言葉で、思いで、
きっとそれだけでなく大好きだった2人の
笑顔や素敵な思い出も頭に浮かぶだろう。
すぐには無理でもいつか‥
ロブにとって辛い品物じゃなく
なっていけばいいなと思った。

ある大雨の夜別邸に突然やってきた女性。
突然の来訪者、不思議な行動も多かった
ために怪しんで坊ちゃんに会わせまいと
警戒していたアリスだったけど‥
「騙してごめんなさい!!
私死んでいますの。私この子
のおばあちゃんでしてよ。」
肖像画やロブのオルゴールの時の回想
みたいなのでちらっと見たことあった
からもしかしてとは少し思ってたけど、
まさか幽霊になって現れるとはね 笑
紹介したことがあったか忘れたけど
アリスは霊感があり幽霊が見えます。
でも坊ちゃんは見えないのでザインに
貰った魔法道具の中にあった、幽霊が
見えて会話もできる眼鏡を着用中 笑
‥では改めて、彼女の名前はリズ。
雰囲気としては、坊ちゃんのおばあ様
とは思えないほど明るくてよく喋る。
雰囲気はすごくシャロンに似ていた。
幽霊となった彼女がどうして突然
別邸を訪れたのかはわからないけど、
今幽霊としてでもこの世に存在してる
ことにはシャーデーが関わっていた。
そして、リズは坊ちゃんの呪いに
ついては何も知らないようだった。
異変が起きていたこと自体、今
初めて知ったことのようだった。
もうじきやって来るおじい様(幽霊)
なら何か知っているかもしれないね。

遅れてやってきたおじい様は‥
おじいさんになってから亡くなった
はずだけど随分と若い姿だった。
リズが亡くなった頃の姿なのかな?
「シャーデーは皆に
呪いをかけて死にました。」
遅れてやってきたおじい様にそう
坊ちゃんが伝えると、おじい様は
自分のせいかもしれないと言った。
リズを失ったばかりの頃、おじい様は
後悔やショックでどうしたらいいか
わからなくなってしまっていた。
そんな時に彼の前に現れたのが
シャーデー‥現れたことが偶然
なのかどうかはわからないけど。
世界一の魔女だと名乗ったところで
おじい様は怯える様子はなかった。
きっと心にも嘘はなかったんだろう。
そんなおじい様にシャーデーの方から
契約するようにと提案を持ちかけた。
「妻と世界中を旅する約束をしていたが、
彼女が死んだことでその夢はついえた。」
そう話す彼にシャーデーは契約すれば
その夢を叶えることが出来ると伝える。
そんな魔女との契約をおじい様はリズと
再会するため迷うことなく結んだのだ。
その後のおじい様、リズのいない
日々は悲しくもあったろうけど、
生を全うした先で再会できるという
希望を持てたからか立ち直って見えた。
そういう意味では、例え魔女の気まぐれ
だったとしてもあの時おじい様を救って
くれたのはシャーデーだったのかもね。

契約を結んでからは、おろかなくらい
素直な彼に少し興味が出たと言って
シャーデーは屋敷に訪れるようになる。
魔女を疎む人もいるから、シャーデー
の身が危険じゃないかという理由で
人に見つからないようにしろという
条件だけおじい様は伝えていたけど。
‥きっとこの言葉にも嘘はなかった
んだろうね、人が怖がるからだとか、
人に危害を加えるかもとか‥きっと
そんな心配よりも彼女の身を案じた。
おじい様は本当に素直で、とても
魅力的な人だったろうなと思った。
他の人からは隠れたところで、何度も
シャーデーとおじい様は会話をした。
いろんな話をして一緒に過ごす間に
シャーデーの中で彼という存在が
少しずつ変わっていったんだろうね。
最初の頃は、何でも自分が1番で
その他のものに対しては大して
興味がないような感じだったのに。
気づいた時にはおじい様のことを
好きになってしまっていたんだろう。
一緒に過ごしてみればシャーデーが
好きになってしまう要素は沢山あった。
でもそんなある時突然知らない女が
屋敷にやってきた、それがシャロン。
おじい様にとって命の恩人で友人。
それに一切嘘はなかったけど、リズと
似た雰囲気の女性というのもあってか
シャーデーは少し焦ってしまっていた。
自分の気持ちを自覚していたかは
わからないけど、取られるって
思ってしまったのかもしれない。
きっとこの時の焦りや戸惑いが、
この後起こってしまう様々な悪夢
のきっかけになったんだろうな。

焦る気持ちを抱えてからシャーデーは
シャロンと関わり始めて、おじい様は
例の契約により死は目前に迫っていた。
それからもシャーデーはシャロンや
おじい様のそばで様子を伺っていた
けど、やはりシャロンはおじい様への
恩を返すため一生懸命働いていたし
おじい様もシャロンのことをいい人
とは思っていたけど勿論それ以上の
感情なんて持っていないのがわかった。
それでも、シャーデーはずっと苦しい
と感じたままで‥嫉妬だったんだろう。
シャロンが来るまでの間は自分が彼の
一番そばにいたはずなのに、その場所が
今はシャロンに奪われてしまったって、
そう感じてしまったのかもしれないね。
その後眠るようにして亡くなっていった
彼を看取ったのはシャーデーだった。
「貴方が誰かのものにならなければ
いいなんて、嘘よ。本当は私のこと
好きになって欲しかった。」
最初はただ人に恋をしただけだった。
でもそれが嫉妬に変わり、憎しみに
変わっていってしまったんだろうね。
でも‥もしかしたらシャーデーも
リズを失った頃のおじい様みたいに
いろいろどうしたらいいかわからなく
なってしまっていたのかもしれない。
憎しみ、妬み、寂しさ、苦しさ、
いろんな感情を抱えたままで
坊ちゃんに呪いをかけていった。
呪いの内容とは裏腹に、愛したい、
愛されたい、幸せな人生を送りたい
‥なんてシャーデーの願いみたいな
ものも込められていたような気がした。
「やはり彼女は生きなきゃダメだ。
死ぬ前に戻って未来に連れて行く。」
上手くいくのかはわからない。
でも本当にできるというのなら‥
シャーデーを救ってほしいと思った。
シャーデーを救って、かけられた
魔法もとけるならそれが1番いい。
きっと簡単ではないだろうけど、
どうか彼の願いが叶いますように。
シャーデーとの話を聞き終えると
最後にロブと再会を済ませてから
2人は別邸から去っていった。
契約が「旅をする」目的だったため
長く同じ場所に留まれないみたい。
話せた時間は短かったかもしれない
けど、死後も幸せそうな2人を見て
話せて救われたんじゃないかな。
「シャーデーも大事な友人
なんだ。よろしく頼んだ。」
そうおじい様からの思いを託され、
きっと坊ちゃんならやってくれる。
呪いで困っている人もシャーデーも
両方救える方法を見つけてくれる。
根拠なんてなくとも、そう思えた。
~ひとこと~
12巻、個人的にめっちゃ情報量が多くて
後半すごい勢いで読み進めてました 笑
でも怖いだけだと思っていたシャーデー。
坊ちゃんやおじい様のような人が関わり
知ってみれば決してそれだけではないと
彼女が抱えるものにも気づけたのにね。
表向き見えている部分がその人物の
全てじゃないなと改めて思わされた。
もう一ついえば、誰かと出会って
関わるということは人が変わる
大きなきっかけになるということ。
もしかしたら、最初に知り合った頃の
シャーデーは本当に恐ろしいだけの
魔女だったかもしれないけど、それは
きっと彼女の能力のせいでもあった。
心にも嘘のない人と出会い関われた
ことで彼女も変われたんだろうね。
だから、いつかのおじい様のように
坊ちゃんになら彼女を変えることが
出来るかもと少し希望が持てている。
呪いを解決して家長を告げるかどうかの
期限までは多分もうそんなに時間はない。
坊ちゃんとアリス、そして彼らと関わる
多くの人達が幸せでいられる未来がある
ように‥今はただ心から願いたいと思う。