星野、目をつぶって。 第13巻【完】

著:永椎晃平 先生

粧歩祭です‥それぞれがそれぞれに
思いを抱えて歩く道のりの中、ここ
では藤本が高橋をおいかけていた。

最初は一緒に走ってたんだけど‥

「良太…悪かった、俺は…俺
の気持ちをお前に伝える。」

藤本のその言葉を聞いて、もう
自分の中で終わらせたつもりに
なっていたことでも、面と向かい
告げられるのは怖かったろうな。

それで逃げて逃げて‥でも最後
は結局言葉にされてしまった。
その思いは、きっと高橋が想像
したままのものだったと思う。

高橋が壁を感じていたかもしれない
部分は藤本にとっては壁でも何でも
なかったのかもしれない‥これで
何か変わることはないんだと思う。

でもこの気持ちを知らないまま
逃げ続けていたらきっとこの先
高橋は身動きが取れなくなってた。

藤本が決着をつけてくれて、
高橋は結果的に背中を押される
ことになったんじゃないだろうか。

まだわからないこれから先に、
前に進む勇気をくれたと思う。

こちらでは、松方が加納を追っていた。
でも松方は体力がないし、見失って
しまい漫研の尾川(部長じゃない方)と
一緒にいた‥そこでこんな話になる。

「尾川さんクリスマスに…私の原稿に
インクぶちまけたのあなたじゃない?」

ひどく冷静な表情で松方はそう尋ねた。
実際、そうだったみたい。同じ賞を狙う
城戸(部長)が傷付かないように‥だって。

でも尾川のやったこと‥もし城戸に
バレたら城戸は傷つくんじゃないかな。

加納の情報を得て、そこへ向かおうと
する松方は、最後にこう言い残した。

「私なら…友達には寄り
添って応援してもらいたい。」

松方の言葉に、尾川は何を思ったろう‥

結果的に、城戸の漫画は無事賞を
取ることが出来たようだった。

人それぞれ考え方はあるだろう。
真剣に向き合うことで苦しむのは
仕方ないし、そうしたくないと思う
ならしなくてもいいことだと思う。

でも、立ち向かいたいと思ったなら
支えてくれる人の存在は大きいし、
一緒に戦うライバルの存在もきっと
すごく大きかったんじゃないかな。

城戸おめでとう!!これから先の彼女の
生き方はわからないけど、きっとこの
まま続けるなら大変なのはこれからだ。

頑張れ‥きっとこの先は、寄り添って
支えてくれる友人がそばにいるから。

さて‥無事加納を捕まえた松方。
松方は加納に対して、あの持込みの
後どうなったかという結果を全て
すっ飛ばして学校を辞めることだけ
を伝えていたみたいだった。

そりゃあ‥いろいろ勘違いもする 笑

まるであの持込みが失敗に終わった
かのように話す加納に対して、松方
は自分の漫画が載った雑誌を見せた。

表紙には「特別読切 松方いおり」
と書いてある。それを見た時の、
嬉しそうな‥でも心底驚いた顔。

「…その顔が見たかった!」

そう言って、松方はにやりと笑う。

終わってしまうのが、これまで一緒
に頑張ってきたことさえなくなって
しまうようで寂しくてつらかった。

でも松方は自分の大切な日々や友人、
共に戦った仲間達を漫画の中に残して
いた‥きっとこれからも、そういう
ものを残し続けていくのかもしれない。

「東京で…加納さんが寝てる間に
描き上げたの。まぁ…ほら…前の
出し方はあんまりだったかなって
今は思ってて……消えないよ。」

学校をやめてしまうことは
変わらない、プロとして本気で
漫画を描き続けるためだろう。

寂しさはきっとあるだろう‥でも
加納は松方を応援し見送れそうね。

そしてこちら、莉穂を追って走り回る
星野だったけど、なぜか見つからない。
莉穂は体力があまりないらしいのに、
体力バカの星野の前から姿を消した。

‥スタート地点からそう遠くない場所、
足を滑らせたのか莉穂は道を逸れて
山から落ちてしまっていたのだった。

それを見つけておぶって山道を
登る星野‥でもあまりに険しい
道に支えにしていた細い木は折れ
また滑り落ちそうになってしまう‥

それを捕まえたのは小早川、そして
小早川ごと引っ張り上げたのは雪姫。

やっと‥本音で話をした。

「海咲は…海咲だけが…なんの
垣根も無く…私に接してくれた…。」

自分を偽って強く見せることで
しか周りと関われなかったという
莉穂にとって、唯一無二に思えた
存在だったんだろう。そんな星野が
小早川と付き合ってるという話に
なった時は、嫌だけど邪魔をしない
ようにと離れようとしていたみたい。

でもそのきっかけ(理由)がメイクで、
自分には明かしてくれなかったのに
小早川には‥って、悲しかったんだ。

「私より…小早川の方が
信頼できるから……。」

そんな風に感じてしまったことが
今回の彼女の態度の原因だった。

今まで話せなかったことを話す。
虐められていた過去、メイクで
変わるきっかけを貰って、そこで
莉穂に出会った‥憧れて大好きに
なって嫌われるのが怖くて本当の
ことを言えなかったということ。

「顔くらいで!!ダサいくらいで
嫌いになるわけないでしょ!!
見くびらないでしょ!!ムカつく!!」

やっと通じ合えたんだと思った。
そして莉穂は、ここまでの本音を
初めてもらしたのかもしれない。

互いの本音を話して、星野は
小早川との話に決着をつけに行く。

怪我をしていた莉穂は雪姫に
付き添われて車に乗せられた。

「…裏切り者…………裏切り者…
アンタは私のお守りでしょ…
なんで…海咲をとめなかったのよ。」

いつまでもブツブツとそう言って
いじけている様子の莉穂に対し、
雪姫は思い切りチョップをかました 笑

ずっと友達じゃないって言ってたのに、
初めて友達だと宣言した雪姫だった。
きっとずっと、ちゃんと友達になりたい
って思ってたんじゃないかなと思った。

勇気を出したこの一歩、きっとこれ
から先良い変化につながってくよ。

「もちろん変われる奴は偉いと思うし
すげーって思う。でもモテようとして
モテなくて、変わろうとして変われ
なくて、格好つけようとして格好
つかない。それがかっこいい、俺
はそんな奴らも最高だって思う。」

「前に進もうとする…
その気持ちが大事なんだ。」

これまでのことを‥そう話す小早川。
星野と小早川の出会いで多くの変化が
あった‥でも2人は一緒にいすぎて、
それ以上前に進めなくなっていた。

「離れないと…から回ってでも…自分
だけで頑張らねぇと俺は、俺の憧れた
星野海咲みたいになれねぇんだよ。」

きっと小早川の気持ちは決まっていた。
変わるために、離れる覚悟だった。

でも不安な気持ちをたくさんこぼす星野。

「小早川とずっと…離れ離れ
になるかもしれないし…。」

最後にそう言った星野に、少しだけ
小早川の気持ちが揺らいだ気がした。

目元に、キス。

結局これ以上のことは話さないまま。
お互い離れたくなんかなかったろう。
不安なことばかり思い浮かぶだろう。
一緒にいたら楽しいし幸せだろう。

でも変わりたい、そのためには、
今のままでいたら絶対いけない。

それはお互いにわかってしまった
ってことなのかもしれないね‥

4月になり、彼らは3年生になった。

星野は莉穂や雪姫と一緒に、日々
メイクの練習を頑張っている。

知り合いが誰一人いないクラスに
なってしまった小早川は‥1年前と
変わらない生活に戻りつつあった。

でも小早川は覚えてなかったけど前年
同クラだったやつに話しかけられた。
なんだっていい‥こういうきっかけを
大事に少しずつ勇気を出してけばいい。

星野と小早川の関係はもう終わって
しまったのかな‥それでも、互いに
変わるきっかけやチャンスを与え
続けてくれたのは2人が会えたから。

いつか互いが本当に一人で前を向ける
ようになった時は‥今度こそまた1から
二人の関係を初められたらいいのに‥
そう、願わずにはいられなかった。

それから数年、成人式の日。
『Fin』の後にあって最初見逃した ←

きっと互いに努力し続けたろう。

星野‥あんな酷かったのに
自分でメイクできるように
なったんだって‥すごいよ。

学校生活はあんな感じで離れて、
卒業後もこれまで会う機会なんて
きっとなかったんだろうと思う。

成人式に来てくれなかったら、
それこそもう会うことはない
かもってレベルだったかもね。

「星野、目つぶって。」

背後から、あの頃のようにそんな風に
声をかけてきたのは、小早川だった。

決してロマンチックな再会ではない 笑
でも2人らしい、笑えちゃう再会だ。

変化については、星野の方しか
書かれていなかった‥小早川が
どんなふうに変われたのかは謎。

でもきっと、彼の中でちゃんと
答えや変化が出たから今、改めて
思いを伝えに来てくれたんだろう。

ああ‥良かった‥ (泣
このまま2人が離れてしまった
ままで終わったらどうしようって‥

涙とまんない‥ほんと良かった。

~ひとこと~

最終巻‥終わってしまいました。
変わった者、変わらなかった者、
結果はどうあれ‥みんなそれぞれ
変わるために努力し続けた日々。

間違えたり、後悔したりを繰り返し
結果変化はなくとも心の中で多くの
思いが変わっていったんだろう。

この物語は、ちょうど松方が描いた
漫画に編集長が言ってくれた言葉の
ように、本当にささやかでかけがえの
ない物語だったんだろうと思った。

言ってしまえば、これは通過点‥
でも決して欠かせない大事な時間。

これから先だってきっといろいろ
苦労したり失敗したりを繰り返す。
でもそうしながらも変わったり
変われなかったりを繰り返してく。
変わる努力をし続けていくだろう。

そう‥変わりたいと思えた大きな
きっかけのお話、星野と小早川が
出会えたことで大きなきっかけを
作り出した、暖かく大切な話。

最初の頃は、変わらないのかって
思う部分も多々あった‥でも気が
つくとほんの少しずつ変わってた。

変化って難しいし怖いものよね。
だからこそ、人は頑張るんだよね。

ラスト‥ほんと泣けて仕方なかった。
素敵な作品との出会いをありがとう。