思い出のとき修理します 第6巻【完】

著者
漫画:山口いづみ 先生
原作:谷瑞恵 先生

大判焼きの美味しいお店だと評判
だった安西商店、今はもう空き家に
なっているそこに突然やってきた
馬部 真一(まべ しんいち)という青年。

幼い頃この商店街に住んでいた彼は、
当時友人達と埋めたタイムカプセルの
中に入れたはずの栞が消えたという。

「あなたもきっと上手ね、いつか
焼いてみたくなったらおいで。」

今は亡くなっている安西商店の奥さんの
聡子さんは美味しいおやつを作れる人が
わかると話していたそうて、口約束では
あったが、幼い真部さんに大判焼き屋を
継がせるような話をしていたんだとか。

タイムカプセルを埋めようと集まった
時、早く集合場所に来てしまった彼は
ボールで遊んでいて、謝って聡子さん
の陶器の人形を割ってしまったらしい。

それを謝ることも出来ないままに割れた
人形とその中にあった栞をタイムカプセル
の中に入れ、それを最近掘り起こした。

「今の自分は正直に謝ることができない
けど未来の自分ならって思ったんだ。」

でも結局謝ることは叶わず終いになった。

存命の安西商店の旦那さんは聡子さんに
そう言われたということを信じてくれず
大判焼きの焼き方を教えてくれなかった。

せめて過去の後悔を、聡子さんが大切に
していたであろう栞を返せたらと考えて
必死に栞を探し求めていたようだった。

その栞も、太一の言うように今はもう
供養されてどこにもないのなら、彼の
願いはこのまま叶えられないんだろうか。

馬部さんのいうタイムカプセル・栞とは
別に安西さん(安西商店の旦那さん)も
聡子さんが残したというタイムカプセル
を探しいるようだった。中には聡子さん
と安西さんが出会うきっかけになった
栞が入っていると聡子さんは言い残した。

馬部さんはその話を聞いて、自分が
埋めてしまったタイムカプセルだと
勘違いして掘り起こしたようだった
けど、それとは別に存在していた。

安西さんのそれは、50回目の結婚記念日
に開くように設定されたゼンマイ時計。
日付を合わせ中を開けると、そこには
馬部さんの言う栞と同じ形に畳まれた
たくさんの大吉のおみくじがあった。

聡子さんと安西さんの出会いは、若き日の
安西さんの友人によって押し付けられた
ことが始まりだったようで、安西さんは
それを打ち明けられないままだった。

自分と結婚したのは、自分が跡継ぎに
なったのは間違いだったと思っていた
安西さんだったけど、聡子さんの本当
の気持ちを知って心が晴れたみたい。

安西さんの探していた栞は見つかった。
では馬部さんの栞は何だったんだろう。

安西夫婦が出会う大元のきっかけは
聡子さんが栞を挟んだ本を落として
それをある男性が拾った所から始まる。

その男性としばらくの間文通交換を
していた聡子さんだったが、男性の
方がそれに飽きて放棄、その後の
ことを友人の安西さんに押し付けた。

結果、押し付けられた彼と結ばれて
幸せになった聡子さんだったけど、
その男は結婚祝いに聡子さんが集めて
いた陶器の人形を送ってよこした。

その中に、あの文通の本当の相手は
自分だと明かすように栞を入れた。
なんとも‥その男ろくでもないね。

馬部さんが壊してしまったことで
聡子さんは真実を知り嫌悪した。
彼女にとって、それは決して大切
なものでも何でもなかったんだろう。

むしろ、嫌なものを始末出来て
ちょうどよかったかもしれない 笑

聡子さんはもういないけど、今になって
遺された者たちの後悔は解消された。
安西さんは聡子さんの意を汲んで馬部さん
に大判焼きを教えることにしたらしい。

明里さんは秀ちゃんのご両親に無事
会ったらしい。その時にお母さんから
秀ちゃんに見てもらいたいという時計
を預かっていた。兄にも関係がある
時計で、兄弟仲を心配して秀ちゃん
には直接話せずにいたようだった。

でもその時お母さんはこうも言った。

「秀司にあなたみたいな人がいて
ほっとしたわ。きっともうスイスに
行くなんて言い出さないわよね。」

明里さんの心配事はそれだった。
兄とのわだかまりも解消した今、
秀ちゃんは本当はスイスに行って
時計師として修行したいだろうか。

ここ最近、秀ちゃん宛てにスイスから
大量の手紙が届いてるのを知っていた。
そしてスイスの知人から、難しい作りの
アンティーク時計の修理を依頼された。

自分には直せない。笑顔でそう話す
秀ちゃんだったけど、明里さんには
彼の態度に違和感を感じてしまった。

「…もしかして、その人に
スイスへ誘われてる?」

「行かないよ。」

少し間を置いて、秀ちゃんは答えた。
誘われてたんだろう、でも行かない。
彼の言葉と本心は同じなんだろうか。

時計を修理しないのは出来ないから
ではなくてスイスに行けない理由に
してるだけなんじゃないだろうか。
本当はスイスに行きたいのに、自分
の存在が邪魔をしてるんじゃないか。

そんなふうに考え込んでしまう明里さん。
そんな時、あまりに突然のことだった。

「……明里ちゃん、結婚しようか。」

そう言って、秀ちゃんは明里さんの
腕に完成したドレスウォッチをつけた。

「これは絶対に壊れたりしない時計だよ。
僕が一生側でメンテナンスするから。
受け取って欲しい、僕の最後の作品を。」

明里さんにとって、泣いてしまうそうな
程嬉しい言葉だった。それでもひっかかる。

彼は自分のそばにいる未来を選んで
くれた。でもそのためにずっと夢見た
時計師を諦めてしまうことを選んだ。

秀ちゃんの中で、自分がスイスに行って
それを明里さんがこの商店街で待つと
いう選択肢はなかった。過去の経験から、
離れてしまえば終わってしまうという
恐怖が彼の中には強く存在していた。

でもついていっても足手まといになる、
待つこともついていくことも出来ない。

受け入れてしまえば寂しくもない、不安
もない‥本当は受け入れてしまいたい
気持ちでいっぱいだったかもしれないね。

そんな気持ちと戦いながら、明里さんは
まっすぐ秀ちゃんを見て答えを出した。

何よりも、互いに後悔しないために。
彼が前に進む勇気を持てるように。

明里さんの想いを受けて、秀ちゃんは
必死にアンティーク時計の修理をする
ために構造やパーツの働きを調べた。

覚悟を決めて、前に進もうとした。
そんな中で、明里さんは考えていた。

(もしもスイスへ行くことを
決めた時は、距離がお互いを変えて
しまうという不安が消えない限り、
秀ちゃんは別れを告げるんだろう。)

でも、大好きな人とそう簡単に別れてやる
つもりはない‥明里さんはほんと強いよ。

「あのドレスウォッチどうしても
欲しいからわたしに売って。
秀ちゃんの言い値でいい。でも
お金ないからローンでお願い。
これが契約書。今すぐわたしに
売って。そしたらここで待ってる。」

そう言って出してきたのは婚姻届。
秀ちゃんが戻ってこられる場所を
見失わないように、ずっと待ってる。

どれだけの年月になるかわからない。
それでも待ってるというのは辛い。
きっとすごく寂しい時間が待ってる。

それでも、彼の背中を押すために。
そして2人の未来を守るために彼女
が考えた方法だったんだろうね。

そうしてまで思い合える2人の思いの
強さが頼もしくもあり、羨ましい。

秀ちゃんの母親から預かったのは
2つの鉄道時計。片方は祖父の形見で
もう片方は修理用の予備と言われた。

調べるうちにどちらが祖父の形見かは
わかったものの、もう1つの方は祖母
が使っていたものだったと判明する。

祖父の形見と祖母の形見、秀ちゃん
のお母さんにとってはどちらも大切
なものだったと気づくことが出来た。

そして本当の意味を教えてくれたのが
2人の息子達宝物に思えたろうな。

~ひとこと~

細かいことは端折っちゃいますが、
最終的に秀ちゃんと明里さんは結婚。

ただ結婚‥と言ってしまうと2人の
決意がうまく伝わらないかもだけど、
婚姻届を契約書として明里さんは時計を
買い秀ちゃんを送り出すことになった。

秀ちゃんは商店街に明里さんを残して
スイスに旅立つことに決めたみたい。

「わたしにとってはいつでも秀ちゃんは
斜め向かいだよ。あいだに海があるだけ。」

明里さんは、そう笑顔で言っていた。
これから先のことを考えたらきっと
不安なことだってたくさんあるだろう。

それでもきっと嬉しい気持ちもホント。
幼い頃にここで出逢えた2人が、ずっと
ここを帰る場所にして一緒に生きてく。

お話はこれで終わってしまうけれど、
2人の想いが永遠に続きますよに。

そしていつかの将来、秀ちゃんがまた
明里さんの元へ帰ってきて今度はここで
美容師と独立時計師のの夫婦になる日を。
そんな幸せな日々が早く訪れますように。

そういえば太一に関していろいろと
不思議な部分が多いお話でしたが、
結局の所少々変わり者の普通の人
なのかなーと思う終わり方でした。

焦らされた分何もなくて残念なような
ほっとしたような複雑な気持ちです 笑

『思い出のとき修理します』全6巻、
お付き合い頂きありがとうございました。