思い出のとき修理します 第5巻

著者
漫画:山口いづみ 先生
原作:谷瑞恵 先生

5巻は実は前から出ていた三根 郁美(みね
いくみ)さんという女性のお話から始まる。
近所の骨董店の娘さんで、お祭りの間は
飯田時計店の手伝いに来てくれてた。

彼女の心の中は謎だったけれど、どうも
秀ちゃんに気があるのかあかりさんに
つっかかるようなことを言ってくる。
明里さんは少し苦手に思っている存在だ。

そんな彼女が携帯を神社で落としてしまい
探し回っていると、そこには逆周りに進む
置き時計、その後少しして着信音が鳴る。

音の正体は前日の雨に曝され壊れたで
あろう彼女の落とし物の携帯電話だった。

着信音は半年も前に使っていたもの、
壊れていればなおさら鳴るはずがないと
思うのに届いていたメールの日付は半年前。

「神さまの気まぐれだな。」

偶然そこに居合わせた太一はそう言った。

時間が戻った?そう思ってしまう郁美
さんはそれを秀ちゃんに話したらしく、
明里さんは秀ちゃん伝いにそれを聞いた。

「時間が戻るって話、ツクモさんは天の
川の神さまだから不思議はないだろ。」

これまた、いつからかそばにいた
太一はそんなことを言ってきた。
津雲(つくも)神社の神さまのことを、
太一はツクモさんと呼んでいた。

太一に関することは相変わらず謎だらけ。
ただの変わり者かもしれないし神様の親戚
なんじゃみたいな疑惑も実は持っている。

でもそういうのひっくるめて、この場所は
人の想いがたくさん詰まって願いを叶え
やすい場所になってるのかもしれない。

逆周りの時計、社務所にあって不調だった
ものを社(パワースポット)の近くに置いて
直そうとしたらしいが、結局時計は逆周り
のまま、直ったのは壊れたはずの携帯電話。

なんて、どこまで本気の言葉なのか
謎だったけど、太一はそう言っていた。

明里さんは秀ちゃんを自分に家族に
会わせたくないわけではないだろう。
ただ秀ちゃんに自分の本当の父親の
ことを知られることを嫌がってる。

自分にもよくわかっていないけど、
問題のある人だなんて話を聞いて
疎遠になっている存在だとしても
それが父親だと知られるのが怖い。

そんなふうに感じてしまってるんだ。
秀ちゃんが、そんな事実を知った所で
何か変わってしまうとは思えないけど。

それでも当事者からしたら怖いんだ。
これまでそういう経験や考え方が
なかった彼女からしたら余計だろう。

でもこの先のこともきっと真剣に考えて
くれている秀ちゃんとのことだからこそ、
明里さんは向き合わなきゃいけないよね。

ある時郁美さんの過去に何があったか
知ることになった明里さん。もちろん
郁美さんに直接ってわけではなくて、
秀ちゃんに郁美さんが話しているのを
偶然聞いてしまったという形だった。

職場での上司からのセクハラが酷くて
会社を辞めたこと、普通のお嫁さんに
なりたいと昔から思っている彼女には
骨董店を継ぐという意志はないのに、
父親は理解を示してくれず継がせたがる。
ましてやケンカ別れした元カレの話
まで持ち出し男を見る目がないだなんて
好き放題言われてしまったようだった。

その場では、明里さんも郁美さんも
互いに理解しあえないままに喧嘩を
売り合うような形になって終わる。
でもその時のことをやりすぎたと
互いに後悔する部分もあったのかも。

後々、ほんの少しの互いの歩み寄り
をきっかけとして郁美さんの想いや
態度の理由を明かされることになる。

「…その人(前の彼氏)美容師と親しくて、
わたしがそれを責めたら単なる親戚なのに
わがまま言うなってキレられて、でも
しばらくして彼がその子の家へ行くのを
見てしまって…だから美容師の女は嫌い。」

明里さんへの態度の理由はそれだった。
なんとも、明里さんとばっちりだね 笑

でもそれできちんと話すこともせずに
喧嘩別れしてしまったけど、例のメール
で今まで告げられなかった彼の気持ちや
真実をようやく理解して酷く後悔した。

家族を大切にする郁美さん、郁美さんと
同じように家族を思えなかった彼とは
そのことでも多くもめてきたんだろう。

「今になって思うのは、いつか家族を持とうと
思うなら全部打ち明けるべきだった。僕にとって
の家族である妹をきみに紹介するべきだった。」

彼の中でもたくさんの後悔があったこと、
それを彼女に告げようとしてきたこと。
上司のセクハラで会社を辞めることに
なったのは彼とは別れた後だったけど、
彼は郁美さんを守ろうと動いたらしい。
でも首にすると脅されて結局は見捨てる
形になってしまったんだそうだ。これも
後々に父親から聞いた話だったらしい。

郁美さんは逆回転の時計に執着していた。
それがあれば、時間を戻せる‥とまでは
いかなくとも、自分で前に進むきっかけに
なればと考えていたのかもしれないね。

「ただ謝りたいんです。」

「…あの時本音を伝えられたら今の状況
は違ってたんでしょうか。もしも過去に
戻って伝えられたら、今までの半年間
わたしはもう少しまともな人間に
なれたんじゃないかと思うんです。」

過ぎてしまったことはもう消えてくれない。
でも今から出来ることをして関係を修復
したりわだかまりを解くことは出来る。

そして郁美さんの話で、明里さんにも
思いあたることがあったようだった。
郁美さんの元彼と今の明里さんの思い
はきっとにているものがあると思う。

そして、きちんと話さず隠し通した
結果がこうなってしまった、きちんと
話していたら変わっていたかも知れない。

明里さんはまだ間に合うはずだから‥
きっと、秀ちゃんに全部伝える覚悟
もやっとできたんじゃないかな。

佐野不動産の遠い親戚である佐野正輝
(大学生)は太一に用があると現れた。
それとは別に、額に傷がある謎の青年
は『仁科明里』を捜し回っている様子。

2人は無関係のようだったけど、偶然
神社で会った所に明里さんも居合わせた。

ニット帽の彼が謎の青年で、明里さんの
ことは名前しか知らなかったようだ。

壊れてはいるが高そうな時計(偽物)を
持ち鳥の巣やカッコウに詳しい正輝。
目的は謎だが鳥の巣を親父に見せる
なんて言いながら明里さんを捜す青年。

繋がりは鳥だけなんだけど、こんな
2人にまつわるお話が描かれます。

正輝の持つ時計は6~7年ほど前に大橋さん
という男性から預けられたものだと言った。

「正輝この時計貸すよ。願掛けのためにわざ
と止めてある。願いが叶うまで預けるよ。」

今は亡くなってしまっているが、当時姉の
体調が優れず入院生活を送っていて、正輝
は神社の鳥の雛が元気に巣立っていけば姉
の病気は治ると願を掛けていたのだという。

そして正輝さんも時計にある願掛けをした。
結局その後、正輝は無事鳥が巣立ったのか
確認することができぬまま引っ越しを重ね
大橋さんとも会うことがなくなってしまう。

太一に会いたがってたのは雛が巣立ったのか
確認するのが目的だったようだけど、大橋さん
に関してはきっともう本当のことはわからない。

でもそんな正輝の話を聞いて明里さんは

「大橋さんはお義姉さんの
知り合いだったんじゃない?」

そんなことを言った。実際、大橋さんは
姉の体調の話をやたらと振ってきたという。
もしかしたら‥姉の恋人だったのかもね。

そして彼の願掛けも、恋人が病気に勝ち
元気になるということだったかもしれない。
クリスマスの日で止められたその時計を
1度姉が見たことがあって、その時彼女
は涙を流していた。別れを告げた日が、
もしかしたらクリスマスだったのかも。

2人の関係が止まってしまった時で
時計を止めて、また2人で歩き出せる
時まで止めたままでいたかったのかも。

そんな願掛けだったとしたら、病気を
理由に別れてしまっても大好きだった
彼の思いを知って嬉しくて涙したんだと
考えたら、いろいろ納得できることだ。

大橋さんの願いは叶わなかったけど、
きっとあの日から正輝の時間も前に
進めないままになってる部分がある。

この時計を動かしたら、止まっていた
時間もようやく動き出せる気がする。

額に傷のある謎の青年の正体は
すぐにわかった。名を賀川伸也
明里さんの実父の息子だという。

親父さんは、突然倒れてからずっと
意識がない状態が続いているという。
きっとそのうち亡くなってしまうんだ。

そんな状況を前に、あんないい親父を
切り捨てたやつに生きてるんだという
事実を突きつけたかったと彼は言う。

正輝にとって親父さんは母親と
再婚した2人目の父親なんだろう。
そして、確かに暴力的な面はあった
ようだけど、それは大切なものを
守るためにふるわれたものだった。

彼と鳥の巣と木彫りの鳥、誰かの形見だと
言っていたその鳥は明里さんのものだったん
だろうね。偶然だったが、正輝から聞いた話
でカッコウは別の鳥の巣に卵を産み育てて
もらう習性があるというのを聞いていた。

親父さんが倒れてすぐ、うわ言のように
『カッコウ時計』と口にしたらしい。
鳩時計、カッコウ時計とも言うらしい。
それについている鳥が形見の鳥だった。

「親父はずっとあんたがよその家で
幸せに育つ姿を想像してたんだろう。」

自分が暴力的な面だったり、父親として
失格だと彼は自分から死んだことにして
くれと明里さんの母に言っていたらしい。

それでも娘が可愛くて大切で仕方ない。
そういう意味では立派な父親だったろう。
遠く離れてしまっても娘の幸せを願って
鳥の巣に娘が大好きだったカッコウを
入れて大切にしていたんだそうだ。

親族からはいい噂を聞かない実父。
でも賀川さんの話を聞いたことで
明里さんの中の印象は変化したろう。
何を出来るわけでもない、それでも
その後明里さんは実父が入院して
いる病院まで顔をだし見舞った。

病院に顔を出した後、明里さんは
母親と実父の話を少しだけした。
これまでは考えたくない存在だった
かもしれない、悪いものと教えられて
そう信じ切ってしまっていた存在。

事実はあっても真実ではないと知って、
確かに人として残念な部分は多かった
みたいだけど、明里さんの父親としては
やっぱり素敵な人だったように思える。

最後に、どこが好きだったのかと問う。

「他人事なのに首を突っ込みた
がって損をして後先考えてなくて
無鉄砲で子供みたいなところ!」

悪いところでもあったろう、それでも
お母さんはそんなところも含めて好きに
なったんだね。そしてその無鉄砲さは、
娘も受け継いでしまった気がした 笑

今回のことは、明里さんにとって前に
進む大きなきっかけになったことだろう。

~ひとこと~

5巻でした、次巻で最終巻です。
本当は無関係に見えて細かいところで
深く繋がりがあるお話が多いんですが、
それを上手にお伝えできずに端折って
しまうことが多くてほんとすみません。

少し不思議な雰囲気のあるお話ですが、
どれも心温まるお話が詰まってます。

私の拙いレビューですが、それで少し
でも興味を持って頂けたならぜひ書籍を
購入し読んでみて頂けたらと思います。