兄の嫁と暮らしています。 第11巻

著:くずしろ 先生

昔大好きだったペットが死んだ時
この世の終わりかってくらいに
泣いて泣いてすごく辛かったのに
しばらく経った頃完璧にその子の
ことを忘れてたってことに気づく。

きっとなんでもない日常を楽しく
過ごしていればどれだけ辛いことも
忘れてしまう時は出てくるだろう。

でもそんな過去の話から、希さんは
志乃に謝らないといけないと言う。

「志乃ちゃんと暮らしてた
のはその逃避の一つだった。」

志乃のお姉ちゃんでいる間は
まだ大志くんと繋がってられる
からって‥大志くんがいない今
もうとっくに他人なのにって。

急にいなくなった誰より大好きな
人との繋がりを消したくないって
本能みたいなのもあったのかも。

「…ごめん、ずっと
お姉ちゃんぶってて…。」

ボロボロと涙をこぼしながら希さんが
話してくれたのはそんなことだった。

申し訳なさもだし、お姉ちゃんで
いないと繋がりがなくなるって不安
みたいなのもあったのかもだね。

ずっと‥1人でどうしようもない
不安とか辛さとか抱えてきたんだ。

でもそんな希さんのそんな部分を
志乃は聞いて受け入れてくれた。

きっとまた気持ちがいっぱいになる
日は出てきてしまうだろうけど、
そしたらまた吐き出しせばいいし
きっと志乃が受け止めてくれる。

そうやって少しずつ吐き出して日々を
生きていく中で、ほんの少しずつ大切な
人がいない今を受け入れてくのかもね。

泣いて吐き出して疲れて眠った翌日は
いつも通りお姉ちゃんである希さんに
甘える志乃に、希さんは安心したような
心に溜まった黒いものが薄まったような、
とても柔らかい笑顔で笑っていた。

最初は違ったかもしれないけど今は
もう希さんと志乃は他人じゃない。

しっかり姉と妹で、家族だと思う。
今さらもう他人には戻れないくらい
互いにとって大切な存在だと思うよ。

希さんも志乃も、心の距離が少し
縮まって希さんだけでなく志乃の
モヤモヤも軽くなった気がした。

紹介したかわからないけど、
今志乃の友人のみなとは怪我で
松葉杖生活になってて、部活も
休んでしまっている状態だった。

今2年で、ちゃんと怪我を治して
最後の大会には出られるように
リハビリも頑張るつもりみたい。

そんな話題から、トレーナーや
理学療法士と呼ばれる存在を知る。

怪我をしても前向きに頑張る人の
ためにサポートする仕事‥ほんの
少しだったけど、興味があった。

これまで何をしたいか、何が好きか
全然わからなかった志乃にとって
これは大きなきっかけだったと思う。

ゴリッゴリの文系である志乃が
目指すには苦手な理系もかなり
勉強しないといけないけれど 笑

何より、少しでも興味を持てる
職業が見つかったのは良かった。
あとは志乃の頑張り次第かな。

志乃のバイト先で、就職や進学でいつか
バイトをやめてしまうという話題が出る。

そんな話題に素直に寂しがる志乃。
その場では何も言わなかったものの、
立花さんもいつか志乃と会うことも
なくなる未来を想像してモヤついた。

元々はただのバイト仲間で、大志くんの
妹だとわかってからはいろいろあったけど
わだかまりも何もなく今はいいバイト仲間
以上には何もない関係に戻っているかも。

それでも寂しいって感じるくらいには
情がわいて当然とも思うけどなあ。

または‥志乃に恋でもしたかな!?

なんてわからないけど、立花さん自身
どうしてそんな気持ちになってるのか
分かってないみたいなんですよね。

その気持ちの正体が大したものじゃ
ないのか、何かはっきりと名前がつく
ものなのか‥いつかわかるといいね。

「あまりは私が出すから、
志乃も連れて一緒に行かない?」

草津温泉の宿泊ペアチケットをもらった
けど2人で行くような人もいないからと
律子は希さんに志乃も誘って一緒に
温泉旅行に行こうと誘ってくれた。

最終的にはハイジさんも誘って
4人で行くことになったみたい。

そこで、テンションの高い志乃と
律子が2人で少し離れてしまった時
ハイジさんにおつかれ?と聞かれた。

「顔色はいいよ…だけど前と別方向
で気を張ってる感じがするから。」

久々に会ったのに、相変わらず
よく気づくというか‥ハイジさんは
希さんの少しの変化に気がついた。

志乃に気持ちを吐き出して受け入れて
もらえてよかったし嬉しかったから
こそ、ちゃんと前を向きたいと思った。

でも志乃に話せたからといって
急に元気になったわけでも悲しさが
払拭されたってわけでもなかった。

それでもなるべく後ろを振り向かない
ように日々頑張り続けてるんだって。
それで結果的に気を張り続けてるから
ちょっと疲れて見えたんだろう。

良いことも悪いことも、変化に気付いて
頑張ってるのを認めてくれる人の存在は
頑張ってる人にはほんと嬉しいよね。

希さんは特に自己肯定が下手くそだし。

ハイジさん自身は最近大丈夫なのかな
って心配も少しあったけど、希さんに
とってはとてもありがたい存在だよ。

希さん無理はしない程度に少しずつ
前向きになっていけたらいいよね。
ハイジさんも無理してないといいな。

旅館でお酒も交えながら美味しいご飯を
食べていると、律子はあっという間に
酔っ払ってさらに追加で酒を欲しがる 笑

律子のふらつく足取りを心配して
希さんは売店まで一緒についていく。

部屋にハイジさんと2人残された
志乃だったけど、ハイジさんの
コミュ力は相変わらずさすがで、
受験の話題が出た時志乃は少し
迷った末進路について相談した。

気になる進路があるけどそれが
自分の苦手な分野だったって話。

「ま――なんとかなる。」

軽いノリで言ったハイジさんだけど
経験を通して感じたことでもあった。

寺を継ぐために仏教系の大学に
入って、そこで大きな問題に直面
したハイジさんは大学をやめ数年
放浪者みたいになってたらしい。

でも結果的に今楽しくいられるから
悪い選択ではなかったんだと思う。

きっとこれまでそうやって
何より自分が後悔しないように
何度も選択して来たんだと思う。

「選んでいいんだな――
なんでも……いつでも。」

志乃はこれまでたくさん遠慮する
のが癖みたいになってた気もする
けど、これからはそこまで遠慮
せずちゃんと選択できるかな。

自分で、選んでいけるといいね。

4人での旅行は、希さんにとっても
とても楽しい時間になったみたい。

大志くんとの思い出話をしたりも
して、やっぱり多少辛そうでは
あるものの過去ではなくこれから
先の未来を見ようと頑張ってた。

「楽しんだりしちゃ
いけないと思ってたから。」

これまで志乃と過ごしてきた中で
こんなふうに遊びに来ることって
なくて、ずっと希さんが抱え続けた
思いも原因になってたんだろうね。

楽しんじゃいけない‥誰もそんな
こと言わないし思ったりしないのに。

大志くんと一緒にしたかったことも
たくさんあったから、もうできない
から余計に罪悪感みたいなものを
抱いてしまってたのかもしれない。

だからこそ、律子は最初旅行の
誘いを断られると思ってたらしい。
今までの希さんなら断ってたかも。

そういう意味でも、今回は前に
進もうと頑張ってみたのかもな。

きっと希さんを大切に思う全ての人が
希さんが楽しそうにしてる方が嬉しい
と思うだろうし大志くんだってそう。

遺してきてしまった大好きな人が
幸せそうにしていたら安心する。
大志くんきっとそういう人だよ。

まだ引っかかる気持ちはあるかも
しれないけど、少しずつ楽しむ
ことを受け入れていけたらいいな。

たくさん楽しいと感じてほしい。
きっと志乃と一緒なら大丈夫だよね。

志乃はこれから先のことを考える。

大学生になったら希さんとは別々に
暮らすかもしれないけど、希さんは
その後もここで1人で生活するのか。
自分だけ好き勝手やっていいのか。

‥とかいろいろ考えてたようだけど、
最終的にはこれまでのように一緒に
生活することがなくなって他人に
戻ってしまうのが嫌なんだと思う。

希さんが気持ちを吐き出してくれた時
もうとっくに他人だなんて言ってたけど
志乃はもうそんなふうには思えなくて‥
きっと希さんだって同じだと思うけど。

どんな選択をしてもこの先ずっと一緒に
いられたらいいなってのが、志乃の心の
底からの願いなのかもしれないね。

妹とお姉ちゃんで居続けるのだって
変えないためには縛りが出てくるし。

環境や立場が変わってもお互いに
姉妹のような関係でいられたなら
それが一番いいかもしれないけど
‥やっぱ簡単じゃないんだろうな。

~ひとこと~

全体的には明るく前向きで読んでいて
嬉しいお話が多かったように思います。

でも、やっぱり今後のことを考えると
変わってしまうことへの不安を抱えて
しまうのは、私だけでしょうか。

嫌でも環境は変わっていくもの。

進学、就職程度ならまだしも、恋人が
できたら?結婚することになったら?
まだ2人ともこんなに若いんだから
これからどんな選択でもできるんだ。

どんな選択でもできる生き方をして
ほしいし、どちらかがどちらかを縛る
ような息苦しさは味わってほしくない。
でも全てが変わってしまうのは悲しい。

この先、どうなってくんでしょうね。
ただの血の繋がった姉妹ならそんな
ことは考えずに祝福できることでも、
感じ方は大きく変わってくるだろう。

自分で後悔のない選択を、2人とも
納得できるやり方で進めていけたら
誰も苦しむことなく生きられるかな。

‥なんてことを考えておりました 笑
どうか2人が幸せでありますように。