兄の嫁と暮らしています。 第10巻

著:くずしろ 先生

希さんが一緒にいた見知らぬ男性。

何者なんだろう、一体どんな関係?
いろいろ考えて一人大混乱してしまう
志乃だったけど、そんな不安はすぐ
説明をしてもらえて解決したようだ。

以前希さんが律子に連れて行かれた
バーで働いてる人で、スマホを忘れた
のを届けてくれたお礼をするために
会っていた、ただそれだけだって。

志乃は心底安心したーって顔してて、
ハイジさんにはからかわれてたけど
義姉で唯一の家族で、兄の奥さんで
失ったものを共有する唯一の存在で。

変わってしまうことへの恐怖なのか
同じ悲しみを抱えてるっていう意味で
孤独になることへの不安なのか、兄の
存在が過去になることへの恐怖なのか
またはそれら全てゴチャ混ぜになった
漠然とした不安や恐怖の気持ちなのか
それとはまた別の感情を抱えてるのか。

わかんないけど、わかんないけど‥
きっとこのまま何も変わらないまま
なんて誰も幸せになれないと思う。

それでも変わってしまうのは怖い。
これから先、志乃も希さんもどんな
ふうに生きていくっていうんだろう。

志乃はきっと昔に比べたら随分と本音
を口にしてくれるようになったと思う。
でも希さんは‥志乃はまだ子供だから
と素直に話してくれないことが多い。

そういう所変わっていかないと、
なんかこのどうしようもない感じ
変わらないままな気がしてつらい。

ハイジさんは前に進むことを怖がる
希さんの背中を押してくれていた。
すぐには難しくても、簡単なことじゃ
なくても‥少しずつ頑張ってほしい。

2人でまっすぐ、年上とか年下とかは
関係なく家族として向き合えるように。

「…そんなのは絶対
ないから大丈夫。」

そう言った希さんの言葉に
志乃は何を思ったんだろう。

きっと、安心したってだけじゃ
なかったんじゃないかなって。

悪い男は困るけど、そうじゃない
ちゃんと素敵な男性との出会いも
これから出てくるかもしれない。
そういう人と恋をして付き合って
いつかは結婚してっていう新しい
未来だって希さんは掴めるんだよ。

それを応援すべきだって気持ちも
きっとあるんじゃないかって思う。

でもそれだけでなく、変わってしまう
ことで兄の存在が本当に過去になって
薄まっていってしまうんじゃと感じて
拒絶したいような気持ちもきっとある。

わかんないけどね、人の気持ちって
白黒はっきりできるものばかりじゃ
ないし、志乃も変わらなきゃって
前を向こうと一生懸命なのは見てて
わかるけどそれだけじゃないもの。

少なくとも、志乃は希さんが本当
に幸せになることを望んでいるし
そのための枷に自分がなってしまう
ことを恐れてる、それだけは言える。

希さんは‥どうなんだろうね。
やっぱ希さんの方が自分自身のことで
いっぱいいっぱいに見えてしまうな。

志乃の幸せを願いたいのに
それすら上手くできない感じ。

不器用で、でも一生懸命に
お姉ちゃんやろうとしてる。

悩んでること一人で抱え込めるほど
器用じゃないのに、1番伝えたい人に
伝える勇気が今はまだ足りてない。

どうにも、難しいね。

学校帰り、スーパーで買い物を
していた志乃がばったり会ったのは
友達の、みなとのお母さんだった。

幼い頃、両親を亡くしてしまってから
しばらく彼女が志乃達の家通ってくれて
ご飯や掃除、あと必要な手続きとかも
全部やってくれていたようだった。

「知らないおばさんが姑みたい
にいたらイヤかなーって。」

そんな理由で、大志くんが希さんと
付き合いって家に来るようになった頃
からは顔を出さなくなったようだけど、
彼女にとって志乃の両親‥お母さんは
かな? 大事な親友だったみたいだから。

そうやって子供達に世話やくことで、
もしかしたら彼女は親友の死の悲しみ
を乗り越えてきたのかなって思えた。

それとはまた別の話なんだけど、
ちょうど進路をどうしようかと
悩んでいた志乃におばさんは
大志くんの話をしてくれた。

志乃にとって兄は、自分達のために
部活とか進学とかやりたいこと全部
諦めて働かざるを得なかったって
思ってたみたいだけど違ったって。

両親がしっかりお金を残してくれてた
から、部活をやめてバイトする必要も
進学を諦めて就職する必要も、そこまで
深刻な問題があったわけじゃなかった。

志乃は全然知らなかったらしいけど、
大志くんも男の子なわけだし、さらに
お兄ちゃんだから妹の前でかっこつけ
たかったと言われれば納得だった。

いろいろ我慢して頑張ってくれた兄に
対して申し訳ない気持ちもあって何か
明確にやりたいことがあるわけでもない
自分が進学なんてしていいのか悩んでて、
でもこの話を聞いて志乃は進学を目指して
頑張ってみようと思えるようになった。

ほんと見えてる部分が全てじゃない。
関わってきた大人の人の目線から知る
兄の存在、志乃にとって全然知らない
ことって結構多いのかもしれないね。

希さんは学校で生徒達が大泣き
しながら喧嘩をする現場に遭遇。

喧嘩の原因は、転向することに
なったことを友達に伝えておらず
親友だと思ってたのにどうして
話してくれないの、と怒り出して
喧嘩に発展してしまったようだった。

寂しさから伝えられずにいただろうし
寂しいからこそ早く言ってほしかった。

お互い寂しさが大きすぎて喧嘩に
発展してしまったようだったから
一緒にいた諸星先生が言ってくれた
言葉は、すごくその通りだと思った。

ネットとか使っての方じゃなくてね、
ケンカしたまま別れるのが一番
しょうもないっていうところよ。

いいこと言うなーって思ったけど、
その後に諸星先生が言ってたことが
希さんにはひっかかったようだった。

「結局物理的距離が離れただけで
関係性が崩れるって思うのは相手を
信用してないって事だからね。」

希さんの現状への執着というか、変化を
恐れてしまう部分ってのには少なからず
諸星先生が言ってたように信用しきれて
ないからってのもあると思うんだよね。

志乃だからとかじゃなくて、たぶん
だけど、他人を信用するのが苦手
なんじゃないかな希さんって人は。

自覚なさそうだけどね、全くもって。
きっと信用してるつもりだと思う。

でも案外できてないから
すぐ不安になるし落ちる。

のかなーってちょっと思った。

伝えたいことをすぐに伝える勇気は
まだないけど、伝えなきゃとは思って
助けてって言ったら受け止めてくれる?
なんて言い方をした希さんに対して、
志乃は何でもすると言ってくれた。

きっとすごく嬉しかったと思う。

でもその後、進学に向けて志乃は
勉強で忙しいこともすごく増えて、
バイトもあるし一緒にご飯を食べる
時間すらどんどん減っていってた。

希さんにとっていつしか『大志くんに
チョコをあげる日』になってたから
すっぽり頭から抜けていたその日に
チョコを用意してくれた志乃に対して、

(志乃ちゃんはもう
『平気』なんだなって)

そう思ってしまって苦しくなった。
希さんは今も前に進めずにいるしね。

いろいろな不安でいっぱいだ‥きっと
希さんって人はそもそもそういう不安
とかを一人で抱え込んでしまいがちで、
表に出すのが苦手なのかもしれない。

妹にかっこつけたかった大志くんの
ように、義妹に対してならなおさら。

でも希さんはきっと自分で思うよりも
ずっと強くない人だから‥タイミングが
悪いことが重なると落ちちゃうんよな。

今の志乃はきっとそれに気付ける程
余裕がないしそれほど器用でもない。

‥希さんから動かないと、きっと
またこじれてしまうんじゃない?

高校を卒業して、進学して‥そしたら
きっと志乃は離れていってしまうから、
こんなっふに落ちてる今でも希さんは
その時のために慣れなきゃって自分を
抑え込む‥一人で抑え込んで苦しくて
寂しくて同しようもない気持ちになる。

志乃は希さんに笑ってて欲しい
だけなんだと思うんだけどね。

難しい、本当に難しいよ。

「いつまでも私が一緒な
わけじゃないんだから。」

希さんは何の気なしに言ったのか、
それとももしかしたら自分にそう
言い聞かせる気持ちもあったか。

2人、いつまでも一緒にいられる
わけじゃないんだから互いが互いの
存在に甘えてちゃいけないんだって。

いつかは‥下手したら近い未来に
離れることに心底不安になってるのは
希さんの方なのに、たまにこーやって
突き放すようなこと言うようなって。

そして志乃もすごく焦ったような
顔をする‥志乃の場合はもしかして
両親や兄のようにある日突然希さんも
いなくなってしまうことを想像して
こんな顔をしたのかもしれないけど。

‥『死』はある日突然やってくるし
明日絶対生きてるなんて保証はない。

でも普段そこまで考えないで生きて
いられるのは、彼女達のように大事な
人の死を身近で味わう経験がなかったか、
または長い時間をかけて乗り越えること
ができた人だからじゃないかと思う。

どーしてもそういうのに、今は
まだ敏感になってしまうんだろう。

…めっちゃ泣いてしまった。

きっかけは志乃が両親の遺品である
お守りを見つけ泣いてしまったこと。

「…一緒にいてくれたら
いらなかったのに…。」

両親を亡くした頃のこと、両親がそばに
いてくれたならそれでよかったって、
お守りなんていらなかったのにって。

そう思ったことで確信したのかな。
希さんが指輪をもらっても困った
だけだったろうっていうことを。

それを伝えて、話を遮ろうとする
希さん‥聞きたくない、受け入れたく
なんてないと全力で拒絶するように。

それでも話すのをやめてくれない
現実を突きつけようとしてくる
志乃に希さんが伝えた言葉は、

「これ一生続くの?無理、一人じゃ無理
…志乃ちゃん、本当にがっかりしないん
ならさぁ、ずっと一緒に苦しんでよ…。」

志乃はいいよと受け入れた。

志乃なりの一生懸命でまっすぐな
言葉は思うようには届いてくれずに
ちょっとこじれそうにもなったけど、
志乃は希さんをちゃんと受け入れた。

言葉を、思いを、しっかりと。

結局自分から話す覚悟なんて希さんは
まだ全然できてなかったし、全部話して
しまったら今までみたいにお姉ちゃんを
できなくなるって怖い気持ちもあった。

それでたくさん言いわけを並べる
けど、志乃はそれを聞いても全部
大丈夫だよって受け入れてくれる。

最終的に‥話せたんだろうか?
それともこれから伝えてくのかな?
あの描写からは読み取れなかったけど

「志乃ちゃんがいてくれてよかった。」

希さんはそう言っていた。きっと
大丈夫、大丈夫になってくよね?

~ひとこと~

少々手段は強引ではあったけど、結果的
に希さんは一歩前に進もうとしている。

2人の関係はあくまで義理の姉妹
だったかもしれないけど、最初は
そうでも今はしっかり家族でしょ。

姉という存在でいなければ他人になって
しまうなんて不安もあったんじゃないか?

あくまで姉として接することを
自分に課してきたから希さんは義妹の
志乃に甘えるのを嫌がってたんだろう。

でもそんな志乃が姉としてではなくて
一人の人として、何でも言ってくれて
いいと気持ちをぶつけてくれるんだ。

一方的なら無理な話だったかもだけど、
志乃と希さんはお互いにお互いを大切に
思ってるし互いの幸せを心から願ってる。

だったら本心を隠したままずっと建前で
接し続けるなんてもったいない以外の
何ものでもなかっただろうと思う。

互いに本音を伝えて向き合い続ければ
きっと2人なりのこの先を見つけられる。

2人だけじゃなく彼女達を支えようとして
くれる友人もいる‥きっと大丈夫だよね。

大丈夫だって、信じたいです。
2人には幸せになってほしい。