兄の嫁と暮らしています。 第9巻

著:くずしろ 先生

志乃がバイト仲間達と初詣。

「――神様、今年も希さんと毎日
健康で、そして――そして一緒に
暮らしていけるように、頑張り
ますので見守っててください。」

そんな願いを込めてお参りしてた頃、
希さんは律子と家でグダっていた。

考え込んで落ち込んでいる様子では
なかったけど、それでも喋りだしたら
また志乃とのこと、大志くんのことで
ぐるぐる考えて表情を曇らせていく‥

そんな希さんに律子は提案した。

「のんちゃん、友達つくろ?」

そう言って律子が連れてってくれた
場所は‥えーっと、オカマバー?かな。
詳細は不明だけどそんな雰囲気のある
バーで、自由な律子に放っておかれた
希さんに声をかけたのはバーで働く
ハイジと名乗るオネーさん(♂)。

手とかを見ると男性だなってわかる
けど、そういう細かい所を見なければ
普通に綺麗な女性にしか見えなかった。

不慣れな環境で、お酒も入って最初は
テンパってしまう希さんだったけど、
ハイジさんのコミュ力のおかげもあり
気付いたらものすっごく意気投合‥

妹に依存してしまう、さらには独占欲
とか束縛みたいな感情さえ持っている
ことを申し訳なく思って、冷静になる
までは距離を取りたいと言う彼女を、
自分を全否定するようだった希さんを
肯定してくれるような言葉に思えた。

「まぁ…これでうまい事落ち
つけばいいけどね、二人とも。」

少し離れた席で他の人達と飲みながら
2人を眺める律子がそんなことを言った。

ハイジさんもいろいろ苦労してる人
みたい、もしかしたら今はすごく
明るいイメージだけど希さんみたく
心に闇を抱えてるのかもしれない。

そんな2人を知りあわせたら、一緒に
映画に行く約束をする仲にまでなった。

ハイジさんのことはまだわからないこと
だらけだけど、本当に希さんにとって
心強く安心できる言葉をくれたと思う。

これから、互いにプラスになれる
いい友人になれたらいいなと願った。

バーにスマホを忘れてしまった希さん。
ハイジさんから律子に連絡が来てて、
ここにいるよって連絡をくれた場所に
希さんがスマホを受け取りに行った。

そこで少しお話をしてたんだけど、
これってハイジさんも希さんみたいな
経験をしてしまったってことなのかな?

もう二度と会えないっていうのは、
別れてしまったからという話なのか
死別してしまったという話なのか‥

わからないけど希さんはどうしたって
この話で大志くんを思い出したろう。

同じかはわからないけど、きっと2人は
似たような傷を抱えているんだろうな。

詳細は割愛するけれど、希さんが
バーに行った日はそのまま帰って
来ず、帰ってきたのは翌日の夕方。

ハイジさんと知り合ったという話は
知れば多少志乃が不安がる要素には
なりうるかもしれないけど、その他は
本当に心配することなど何もなかった。

以前先生たちと宅飲みをしていた時は
楽しめなかったのもあって翌日まで
残るほど悪酔いをしてしまっていた。

でも今回はそんな様子はなく元気で

「楽しかったからかな…。」

希さんはそんなふうに言っていた。
昨晩からのことはおおまかに志乃にも
話してくれたけど、まあおおまかに。

ハイジさんのことは伝えていないし、
彼女の行動や言動から志乃は何だか
漠然と違和感を感じてしまっていた。

希さんがホストにハマったと思ってる
のかまたは男ができたと思ってるのか‥
詳しい所は志乃自身わかってないの
かもしれないけど、ただ漠然とした
不安みたいな気持ちがあったんだろう。

大志くんという存在がいなくなった
ことで変わってしまうことを恐れて‥

兄の死を受け入れ前に進もうと努力を
しても、そういう変化を恐れる気持ち
は簡単には消えてなくならないと思う。

ハイジさんとの出会いで希さんにいい
変化のきっかけを与えてくれたらとは
思うけど志乃から詳細を聞く勇気もなく
希さんから話してくれそうにもない。

ちょっとこのままでは不安が多いです。

いろんなモヤモヤしてしまう気持ちを
誤魔化す意味もあったかもしれない。

バレー部の練習を見に行った志乃。
そこで小泉と会って、年末に話した
ことについて話したいと言われた。

「私本当に会いたくなくて、父親も
義務で来るだけと思ってましたし。」

そんな状態で父親と会って、1つだけ
気になってたことを聞いたんだって。

両親が離婚して家を出ていったのは
家主である父親の方だった、普通は
母親側が出ていくものだろうと。
だから、どうして父親が家を出て
母親と子供達が残る形になったか
わからなかったと伝えたんだ。

それに対して返ってきた答えは、
小泉には想像出来なかった内容。
この人が自分達にまるで興味が
なかったらそんな選択なんて
考えもしなかっただろうから。

不器用だったかもしれない、愛情を
伝えるのが下手な人だったのかも。
それでも、彼なりに娘達を大切に
思っていてくれたのかもしれない。

その一件があってからも小泉が父を
嫌う気持ちは相変わらずらしいけど、
これまで悪い所ばかり見えていたけど
もしかしたら見落としてしまっていた
だけでいい所もあったのかもしれない。

そういうことに気付けないままで
いるよりは良かったと思えたみたい。

表向きに見える態度や言葉だけが
全てではないからね、難しい。

志乃も希さんも似たようなことで
悩むことが多い気がするけど、
素直になって問い詰めたら今度は
溝が深くなってしまうんだろうか。

小泉父娘のようにはいかないかも
しれないけど、それでもやっぱり
話をする必要はあるだろうな。

‥なんか、うまいこと行く方法が
あればいいけどほんと難しいな。

スマホを届けてくれたお礼に希さんの
奢りで一緒に映画に行く約束をした。

相変わらずハイジさんのことは
よくわからないことの方が多い。
でも少し明かされたことがある。

実家が出らであること、弟がいる
こと、そして半年前に恋人を亡くし
それで大分参ってしまってること。

弟に汚い部屋を指摘されちゃんと
しろって怒られてたから、元々は
部屋を散らかし放題にするような
人ではなかったのかもしれない。
ただ半年前のことが堪えて色々と
投げやりになっているんだろう。

店のお客さんでしかない希さんと、
同伴ってわけでもなく普通に遊びに
行く約束をしてることも、弟からは
どうかしてるなんて言われていた。

そして希さんも会ったばかりで全然
知らない人と遊ぶ約束をした自分の
ことをどうかしてるなんて思ってた。

互いに大切な人を亡くし出来た隙間を
埋め合うように急に仲良くなったものね。

だからこそ、希さんも志乃や‥
もしかしたら大志くんに対して
後ろめたさのような気持ちを
抱いてしまうのかもしれないね。

‥この出会いが、決して悪い
方向に流れてしまわないように、
ただただそれだけを願います。

これは、希さんがハイジさんと
映画を見に行ったその日のこと。

「雑踏の中に殺したいほど
憎い奴を見つけてね…。」

通りすがりに見つけたのはハイジ
さんの元カレ、その人が半年前に
死んだと言ってた人だったみたい。

彼との別れの言葉は酷かった。

「やっぱり普通に結婚
して親安心させたい。」

8年も付き合って一緒に住んでて、
この先もずっと一緒にいるつもり
だったのにそう言ってフラれた。

親を出されたら何も言えないよね。
そんな別れ方をして、もう二度と
会えないなら死んだものと思って
これまでずっと耐えてたんだって。

たった半年しか経ってない、まだ
元カレを好きな気持ちは残ってる。
それでも自分を納得させるように
何もなかったよりはいいと話す‥
そんなふうに思わないとやって
られなかったのかもしれないね。

ハイジさんの話すことは、希さん
には理解できることもあったけど、

「何もなかったよりはいい
なんて思えない。まだ…。」

似ているけど違うんですよね。
希さんがハイジさんのような経験を
していたとしても、きっとだけど
今のようにはならなかった気がする。

『死』っていうのは、それ
ほど大きく辛いことだろう。

ハイジさんのことが大したことない
って言ってるわけじゃない、でも
気持ちが残ってて、もし会いたいと
思えば会えてしまうハイジさんと
違って希さんは本当に会えない。

あんなに幸せだった時間を思い出に
することすら出来てないんだろう。
想像しただけでも‥しんどいな。

全てではない、もういない大切な人
からのプレゼントを受け入れられない
という話だけ、本当に最低限だけを
ハイジさんに聞いてもらったみたい。

慰めや励ましがほしいわけじゃない。
きっとずっと自分の中に溜め込んでた
気持ちを吐き出したかったのかもね。

それによって多少気持ちが落ち着いた。
希さんが前に進むには、きっとこう
して誰かに話したりして自分の中の
気持ちを整理することも必要だろう。

こうやって、ほんの少しずつでいい、
お互いにお互いの気持を楽にできる
友人関係になってくれたらなと願う。

‥こんな話をしているタイミングで
学校の友達と一緒に買い物に来てた
志乃とばったり遭遇することになる。

「おにーさん…?おねーさん…?」

「どっちだと思う~~?」

「声は男性ですね……。」

なんて可愛らしい会話で9巻の最後を
締めくくってくれたけれど、志乃には
ここ最近の違和感の相手がこの人だと
すっかりわかっているようだった。

相変わらずもやもやしてるかもだけど
もう少しだけ待ってあげてと思った。

今現在もそうだし、これから先も
志乃がもやもやしたり不安になる
ことだって出てくるんだろう。

この先の未来が志乃と希さん両方に
とっていい未来になるわからない。

でも本当にどうにもならないくらい
もやもやしてしまった時は、素直に
冷静に言葉で伝えることも必要だろう。

希さんを支えたいのにもやもやが
続いて上手く出来ないともがく志乃。
前に進まなきゃと思うのに今はまだ
前に進めずもがき続けている希さん。

いつになったらこの2人は、本気で
笑い合えるようになるんだろうか。

~ひとこと~

新キャラ登場しましたね~。
決して悪い人って感じではない
けどこの先どう影響していくかと
考えると五分五分な気がしてます。

希さんにとってはプラスになる
部分が多いのは確かだけれど、
志乃にとってはどうだろうとか、
ハイジさんだって抱えてるものが
あって彼だって全てを話したか
わからないからもっとどこかに
深い闇があるかもしれないし‥

なんて私がぐるぐる考えた
所で何の意味もないですが
ちょっと考えてしまいます。

悪い人なんて1人もいない。
だからこそ少しでも幸せに近づいて
ほしいのに、難しいものですね。

まずは一歩‥希さん、志乃が指輪の
ことを気にしてることは気づいてて
それでも受け入れられず苦しんでる
ので‥まず一歩前進するきっかけを。

ハイジさんの存在がそのきっかけに
なってくれたらと願ってます。