兄の嫁と暮らしています。 第8巻

著:くずしろ 先生

立花さんが志乃を連れて行った場所、
志乃がよく大志くんに連れて行って
もらったという海‥ここでようやく
預かり物の話を志乃に伝え渡そうと
する‥プレゼント指輪だったらしい。

突然のそんな話に志乃は酷く動揺‥

これまで、立花さんとの会話の中で
志乃が暗い気持ちになっていたことは
よくあったけど、これまではなんとか
抑えてた感情を全て吐き出したような
‥それくらい一方的に言葉をぶつけた。

それは多分、大志くんの死という
現実からの拒絶だったんだろう。

プレゼントを受け取ることもせず
帰りたいと言い出す志乃に、立花
さんは不器用なりにまっすぐに‥
一生懸命言葉を、思いを伝えた。

そんな中で志乃は昔大志くんに
言われた言葉を思い出していた。

‥もしかしたら、両親を亡くした時
この海で言われたことかもしれない。
同じ言葉を立花さんに言われたのかな?

ちょっと理解力不足ですみません。
多分そうなんだろうって思う、俺が
いるからって言ってくれたのかも。

その直後、志乃は無言で
プレゼントの袋を受け取った。

そのまま海の中へ‥えっ!!!笑
まあびっくりしたけど危ないこと
ではなかった、大丈夫っぽかった。

ただ‥大志くんを思い出したからか
同じ言葉を言われたからか‥ようやく
兄の死という現実を受け入れられた。

「兄貴、死んじゃったんですね。」

これまでずっと避けてきたこと、
考えないようにしてきたことだ。
初めて口にしたのかもしれない。

思い切り泣きながら笑顔を見せた。

大事な人の死はつらい、それでも
その事実すら受け入れられないで
いる間は余計に苦しかったろう。

周りはきっとこの話題にはなるべく
触れないようにしてきたんじゃない?
でも志乃には、苦しい思いをさせた
としても受け入れるために立花さん
のような存在は必要だったのかも。

つらいけど‥受け入れられたなら
少しずつでも前に進める気がした。

バイトもお休みで、早く帰ってくる
はずだった日に連絡もなしに帰らず、
結果希さんを心配させてしまった。

ちゃんと謝らなきゃ伝えなきゃと
思うけれどクリスマスはまだ先で
プレゼントのことは言えない。

だから今は中途半端に誤魔化す
ような言い方しかできなかった。

「……言いたくない…ワケじゃ
ないんです…けど……けど今は
…言えない。ごめんなさい。」

もう少し後にちゃんと言う、何が
あったかちゃんと言うと伝える志乃に
希さんは分かったと頷いてみせた。

でもその表情は笑っているようで
笑っていなくて、酷く傷ついた目を
しているってことに気付いた志乃は
背を向けてしまう義姉を引き止めた。

「ちゃんとわかって…くれてる?バイト
の事相談しなかった時とかと今日は
違うよ。違うからね。心配や不安に
させたのは…同じかもだけど…。」

志乃の必死の言葉がどこまで希さんに
届いたのかはわからないけど、最初の
表情よりかは少しマシになった気がした。

クリスマスまであとどれくらいだろう。
きっと全てを話してくれるまでの間は
希さんずっと寂しいし不安だと思う。

早くクリスマスになりますように‥

これはおそらく、立花さんと話を
した次の日の朝のことだと思う。

志乃、これまではずっと兄との写真を
伏せて見ないようにしていたんだね。
でも見られるようになったみたいだ。

それもこんなに優しい顔してさ、
この変化が嬉しすぎて少し泣いた。

まだきっと心は痛むと思うけど、
こんなふうにして少しずつ一歩
ずつ乗り越えてくんじゃないかな。

相変わらず進路のことは決められずに
いた志乃だけど、学校でも友人達が
気付くくらい随分明るくなっていた。

その変化には、友人達も随分と
安心しているように思えた。

そんな中進路を決められず悩んで
いると友人達からある質問をされて‥

「志乃さん本当にやりたい事
ないん?一個も?みじんも?」

「大学とか将来こーなり
たいーてのじゃなくても?」

きっと志乃の中に自立に向けてって
いうのが大前提になってたから、
将来とか仕事とか学部とかなしに
やりたいことなんて考えたことも
なかったろう‥それ抜きにしたら
志乃には思い当たることがあった。

ちゃんとやりたいことあるじゃん。
吹っ切れる前の志乃でもこんな答え
を出したろうか‥それはわからない
けど、希さんのこととか関係なしに
やりたいだなんて言ってきたのは
随分と久しぶりなことだったみたい。

少しずつ、自分を見つけていく。
兄の死や義姉との生活で考えること
はきっと多かったろうと思うけど、
やっと自分のことを考えられる
心の余裕が戻ってきたのかもな。

クリスマス当日、遅すぎる誕生日
祝いとともにクリスマスパーティー
をしてあの日のことも全て話した。

希さんの手震えてたけど、大志くん
からのプレゼント受け取ってくれて
中の指輪を見ると涙を流していた。

あの表情の意味は‥希さんが何を
思っていたかはよくわからない。

ただぼそっと呟いた言葉は気になった。

志乃は今回のことをきっかけに
吹っ切れたかもしれないけれど、
希さんの方はどうなんだろうね。

指輪のプレゼントという名の形見、
どんな気持ちで受け取ったんだろう。

その時志乃はちゃんと渡せたって
ことでいっぱいで希さんが喜んでる
とか苦しんでるとか、彼女の気持ち
までは頭がいってなかったかも。

誕生日‥10月に渡そうと買ってた
プレゼント、いろいろあって渡し
そびれちゃってたものも一緒に
渡せて志乃としてはやり遂げたと
達成感のほうが強かったかもね。

今回は大丈夫だったって思ったよね。
‥でもこのお話の所々に、この日を
後悔するような言葉が書かれていて‥
希さんの表情も読めない所が多くて。

この先どうなってしまうんだろう、
漠然とした不安だけが残った。

年末、志乃も一緒に希さん
の実家に行くことになった。

なんやかんやと楽しそうではあった
けど、どこか落ち着かない志乃。

その理由はあとで明らかになった
けど‥ここではまた違うお話。

ある日のバイト中に志乃のバイト先で
何時間も立ち尽くしている小泉さんを
見つけて少し話をしていたんだけど‥

本当に聞きたいことを希さんに聞く
勇気がなかった志乃はそのことに
ついて希さんの考えを聞いていた。

離婚した元父親に会ってきたという
小泉さんが随分凹んだ様子だった。
その理由は本人から教えてもらえず
なんでそんなにと疑問を持っていた。

それに対して希さんは、あくまで
想像出来る原因を言ったんだけど‥

再婚っていうワードに、きっと志乃は
希さんが誰かと再婚を考えるように
なったらとかそういうことを想像して
しまったんじゃないかな。前にも
そんなことを想像させる描写はあった。

そのたびに志乃は受け入れたくないと
苦しんでいるように見えていたけど、
兄のことを受け入れてもこれはまた別。

あくまで小泉さんの元父親に関する
想像で希さんの気持ちじゃないけど、
希さんまだ若いしモテるし、そういう
可能性だってあるんだと考えたら‥
そりゃ酷く複雑な気分だったろう。

志乃がずっとぼんやりしていたのは
あの指輪を希さんがつけてくれてない
ってことだったみたいだ。渡した時、
喜んでくれたものだと思ってたけど‥

誕生日プレゼントにあげた万年筆も
修学旅行のお土産も喜んで使って
くれる希さんのことだから、指輪も
きっと大事そうにつけてくれることを
志乃は想像していたのかもしれない。

志乃のいう『そう』が何を意味するか
はっきりとは描かれていなかったけど
想像するに再婚とか他に気になる人
とか‥そういうことを考えたのかな。

いや、全然違うかもしれないけど、
志乃にとってはクリスマスの日に
渡すのがベストなことだったけど
希さんにはもっと慎重にならなきゃ
いけないことだったかもしれない‥

そう思った志乃だけど、お風呂を出た
頃には希さんは疲れて寝てしまってて
何も言うことは出来なかったようだ。

希さん、本当に何を思ったんだろう。
いつかそんな話出来るようになるかな。

~ひとこと~

良い変化もありました、でも
もしかしたら取り返しのつかない
レベルの失敗もしてしまったかも。

希さんの気持ちがわからないことには
どうにもならない部分かもしれない。

めっちゃメンタルがしんどいので
そう遠くないうちに続きが欲しい 笑

いろいろ後悔はあれど、直接聞くわけ
にもいかない志乃は1人思っていた。

自分はいろんな人に支えてもらってて
希さんにとっての支えはもしかしたら
大志くんだったかもしれなくて‥もう
大志くんはいないし代わりにもなれない。

それでも支えになりたいっって。
志乃のそんな思いがこれから先
どんな行動を取らせるんだろう。

これまでは、やっぱり志乃の方がまだ
学生で若くて子供で支えてあげなきゃ
いけなくて‥と希さんが頑張ろうと
する描写が多かったように思うけど、
前に進めた志乃だからこそ今度は
希さんを支えられるかもしれない。

またほんの少しでも、いい方向に
変化があったらいいなと思います。