兄の嫁と暮らしています。 第7巻

著:くずしろ 先生

志乃は進路を決められずにいて、何か
やりたいことはないかと聞かれれば
一先ず働きたいとだけ思っていた。

希さんにお世話になりっぱなしじゃ
いけないとか迷惑をかけていけない
とか多分そういうのが理由だと思う。

やりたいことが見つかるまでの
間は進学してやりたいこと探しを
するというのも一つの選択肢だ。

‥そういうわけで珍しく勉強をして
いた志乃に、希さんは構いたいのか

「心配だなーこんなんで
大丈夫なのかなーー。」

あえてそんなことを言ってみせると

「…うんごめん、だから頑張る
から…卒業したらちゃんと
家出て自立するから。」

志乃は暗い表情でそう言ってくる。
希さんはそんなこと望んでないよね。

「自立しなくてもいいよ。」

一応は応援するような言葉をかける
が最後にぼそっと、本音が出ていた。

もしかしたら自分でも自覚してなかった
気持ちが漏れてしまったのかもれない。

ずっとそばにいてほしいんだろうね。
子供はいつか巣立つ、そんなことは
分かっていても寂しいものは寂しい。

大志くんが欠けた穴を埋め合ってた
っていうのもあって、完璧に依存
してしまってるんだろうなとは思う。

でも子供の成長を喜べない、寂しい
なんて感じてしまう自分は幼稚だ‥

そう思ってしまったら、少なくとも志乃
よりは大人だって思ってたのに、自分の
気持ちに気付けば気付く程幼稚だと思う。

そんな自分から志乃が離れていこうと
してるなんて‥きっときついだろうな。

「姉妹として仲良くなってる
はずなのにぼんやりした
不安はずっとある。」

そんな状態で1人が不安で不安で
誰かに話を聞いてほしくなって、
希さんが連絡したのは律子だった。

電話したくて連絡したんだけど、
そしたら律子はわざわざ家まで
やって来てくれて今に至る 笑

「私って重い…………?」

自己嫌悪に陥りながらそんなふうに
言った希さんに対して律子は言う。

「まさか今までお気付きで
なかった…?うそでしょ…。」

希さんの愛は激重らしい 笑
でもそんなふうに誰かを想って一生
懸命になれる希さんのこと、重いけど
すごいと思ってたと律子は言った。

「だから志乃もそんな感じでオトせば?」

大志くんをオトした時のように 笑
付き合えとかそー言うんじゃなくて、

「大志の時みたいにもっと志乃の
気持ちを考えて動いてあげたら?
…今不安なのはさ、自分の気持ち
ばっか考えてるからじゃないの?」

オトせばって何事かと思ったけど
確かに希さんの場合はそうなのかも、
自分の気持ちでいっぱいいっぱいに
なっちゃってたのかもしれないね。

だから母親にも、志乃をどうしたい
のなんて言われてしまっていたし。
自分のこと幼稚だって、嫌になってた
希さんに大丈夫だよって言ってくれる
律子の言葉は大きな救いだったろう。

「誰でもいいから話したかったって
言ったけど、でもね、思い当たる
のは律子しかいなかったんだよ。
…ありがとう、ちょっと元気出た…。」

律子の言葉に救われて、そう伝えた希さん
の言葉に律子は少し泣きそうになった。

そんなふうに、話を聞いてもらいたい
話がしたいって思った時に頼りたいと
思う人がいるのってすごく幸せなこと、
大切な友人からそういう存在だと思って
もらえるのもすごく幸せなことだよね。

バイトの休憩中、立花さんと被って
偶然彼の実家が大志くんがバイトを
してたお弁当屋さんだと知った志乃。

「立花さん知ってるかわかりません
けど私の兄が昔バイトしてたんで…。」

話題を振ったのは志乃からだった。
でも、それに対して知ってると
答えた立花さんは、志乃があの
大志くんの妹だと気付いていた
なんて話してくれるんだけど‥

志乃にはもう、彼の話の内容は
聞こえてなかったかもしれない。
ただ兄が亡くなってからのこと
いろいろ思い浮かべては1人で
どんどん暗い思考に落ちていく。

ちょっとした話題で引き戻される。
まだ全然で過去にできてないから
思い出にすらできないままずっと
ただ考えないようにしてるのかな。

そんな自分を、自分ではどうにも
できなくて苦しいのかもしれない。

目を覚ますと兄が生きていたら
こんな生活をしてたのかもって
言う..とても幸せな夢を見た。

もう一度目を覚ますと、まだ両親と
兄がそばにいて志乃も幼い頃の夢。

でも三度目に目を覚ますと、
そこには希さんしかいない。

悲しくてもつらくても、それが
今の現実でそれ以外は全部夢。

幸せな夢を見た後に、まるで夢の
続きのような辛い現実が待ってたら
現実なのに、受け入れるのが辛く
感じてしまったかもしれないね。

その日は、ちょうど大志くんの
一周忌の日だったみたいで‥

もしかしたら志乃や希さんが
ここ最近不安定に感じたのも
この時期だからかもしれない。

大志くんの一周忌、その日志乃は
学校を休んでお墓参りに来ていた。

そして午後の授業をサボって、
みなとと翔太郎もお墓参りに
行くことにしたようだけど‥

本当は翔太郎、律子に当日行く
のは反対されてたんだよね。

「後日にしな、わざわざ当日
行くのは野暮だし自己満足だよ。」

それでも、大志くんの死を受け
入れられてないのは、全然実感
わいてないのは翔太郎も一緒で
そんなふうに割り切れなくて、
当日行ってしまったんだよね。

もう2人は帰っただろうと思って、そう
願って行ったけどまだそこに2人はいた。
足りない存在を埋めるかのようにきつく
結ばれた2人の手、死んだような目をして
何時間も立ち尽くしてたのかもしれない。

翔太郎達に気付くと普段のような明るい
表情を見せてくれたけど、それまでの
酷く暗い表情..この時翔太郎達が何を
感じたかはわからなかったけど、ただ
律子の言っていた通り来るべきでは
なかったんだろうな‥そう思った。

この時律子は、当日行くべきではない
と言いながらも彼女達から見えない場所
に隠れているようだったけどお墓参りに
来ていて‥「ばかばっか」と口にした。

きっとそれは自分も含めて。
当日行くべきじゃないと思っても
翔太郎達と同じ、割り切れずに
来てしまったのかもしれないね。

それくらい、彼ら彼女らにとって大志
くんの死はまだ現実だと思えない‥
受け入れられないことなんだろう。

明子の弟はクリスマス前に生まれて、
そしてすぐに死んでしまったらしい。
当時2歳だった明子は覚えていなくて
悲しいとも思わないけど、クリスマス
の時期になると家の空気が重くなる。

「…私が嫌だったのは皆悲しんでるのに
私だけちっとも悲しくなかった事だよ。」

そんな明子や家族も、それから10年
以上たった今では落ち着いたという。

事実は消えないし何もなかった
ことになんて絶対ならないけど、
そんな中過ぎていく日常に人は
ほんの少しずつでも普通にできる
ようになっていくものなんだろう。

それでも、やっぱりその時期に
対する苦手意識みたいなのは残る。

志乃も希さんもまだ今は前に進めてる
ようで進めていない部分の方がきっと
多いけど、もしかしたら長い時間を
かければ変わるのかもしれないね。

だからきっと、苦しくても悲しくても
今はただ一生懸命に生きていくだけ。
もしかしたら、決して乗り越えられる
ものではないのかもしれないけれど、
そんな思いを抱えながらも生きていく。

そのうち少しずつ暗い気持ちが
悲しい気持ちが落ち着いていく。
そういうものなのかもしれない。

クリスマスを前に、何やら
ソワソワし始める立花さん。

志乃に話したいことがあるようで
でも中々切り出すことができない。

その内容大志くんのことみたいです。
クリスマスプレゼントを大志くんが
受け取りに来ることはないまま他界
してしまって、今もプレゼントは
手元に‥そしてちょうど1年後の
クリスマスは間近に迫ってると。

内容が内容だ、余計に落ち着いて
話せる時間がないときつかったね。

そうやって話せないうちに、時間は
過ぎクリスマスは近づいてきて‥
いい加減話さなきゃと覚悟を決めた
のかもしれない。バイトがお休みで
早く家に帰ろうとしていた志乃を
立花さんは学校まで迎えに行って
そのままバイクに乗せて走り出す。

もちろん予め連絡をもらってたとか
そういうんじゃない、突然迎えに
来られて拉致られて志乃は状況が
全く掴めていなかったろうと思う。

「ここじゃアレだから乗って、うしろ。」

立花さんもそれだけ言って、それ
以上何も教えてくれないままだった。

この日は志乃が早く帰ってくるからと
希さんも早々に家に帰ろうとしてて、
‥‥志乃はどこ連れてかれるんだ 笑

なんというか、いろんな意味で
不安な感じで7巻終わりました。

~ひとこと~

少々暗い話になりますが‥昔祖父を
亡くした時も、まだ若かった学校の
先生が亡くなった時も、私は悲しいと
言うよりも突然のその事実を受け入れ
られず苦しかった記憶があります。

でもそれは亡くなってからしばらく
の間のこと、もう15年以上も前の
ことで今となっては過去のこと。

私の感じ方が一般的なのか冷めてる
のか自分ではよくわかりませんが、
時間が経てば‥気付くとその人の
死を受け入れて前に進めている。

そういうものなのかなと思います。
身近な人が突然亡くなってしまう
ということに対する恐怖心は今も
残念ながら今も残ってますが 笑

遺された人達がその先どうやって
生きていくのか、足りないものを
埋めることは出来ず代わりなどなく
ても生きていかなければいけない。

大丈夫になるのはいつだろう、
何かきっかけがあっただろうか。

自分のことは昔過ぎて正直どうやって前
を向けるようになったか覚えてません。

この物語の中で、志乃達が大志くんの
死をどう受け止め、どう進んでいくか、
あまり明るいお話ではないので読んで
いて苦しい気持ちになることも多い
ですがとても考えさせられることが
多い‥そんな作品だと感じています。

忘れるにしても引きずるにしても、
いつかは前にすすめると信じて‥
もうしばらくの間彼女たちを
見守っていけたらと思います。

にしても志乃の行き先はどこだ 笑
今は何よりそれが気になります←