著:ワザワキリ 先生

一度は鎮まったと思われた寄生樹は、
そう時間をあけず再生してしまった。
榮が言うには、全ての威光をアオイ
さんに移植して四六時中取り憑いて
ないと完全には封じられないとのこと。
でも威光は宿主と一心同体で、宿主が
消滅しないと威光は他者に乗り移る
ことはできないんだという。
安倍さんの威光でアオイさんを助ける
のは安倍さんが生きている限り不可能。
‥そう言われてしまって、安倍さんは
芦屋が言っていたように榮に協力を仰ぎ
アオイさんを救う方法を選ぼうとする。
でもそう簡単ではなかった。
榮‥正しくは榮に憑いていた威光には
長く芦屋に憑いている今でも榮がずっと
抱えてきた妖怪への恨みや憎しみが濃く
染み付いてしまっているようだった。
先程まで冷静に会話できていたのに
アオイを助けるため力を貸してほしい
と安倍さんが頼んだ直後‥暴走した。
榮は妖怪に家族を殺されたらしい。
彼がずっと妖怪を恨んで殺してきた
のにはそういう理由があったんだね。
そんな思いを今も抱えている榮に
アオイさんを救う手助けを‥なんて
了承してもらえるはずもなかった。
そう考えた安倍さんは、自分を
犠牲にする選択をしようとする。
「アオイの寄生樹は俺の威光で
治します。”芦屋榮”と同じ方法なら
確実に寄生樹を封じられるんですよね?」
安倍さんは人間であっても物怪庵の主、
今後の隠世に住む妖怪達のためならと
やっぱりそういう選択をしてしまう。
そんななんでもないような顔して、
そんな悲しい選択をしないでよ‥。

榮が意識を保つのも限界になって
眠りにつく‥その先にいた芦屋。
ここは芦屋の中の意識が存在する
場所って感覚でいいんだろうか。
芦屋と榮が少しだけ話をした。
というか、ほぼほぼ芦屋が話す
仮設を榮が聞いていた形だった。
今ここにいる威光には榮がトウゲン
さんを助けた時や自分の息子である
芦屋に関することも記憶がない状態。
その意味を芦屋は考えてたんだろう。
あくまで今目の前にいる榮の見た目を
した者の正体は榮の中にいた威光だ。
姿が若く、経験したはずのいろいろな
記憶がかけている理由として、芦屋は
この人格が物怪庵の奉公人になる前の
妖怪を殺していた頃の芦屋榮と考えた。
過去に妖怪を助けた記憶がないのは
奉公人になってからは威光を使う
ことをやめたからではないかって。
アオイさんと会って妖怪を助けよう
と思えるようになるほどの、アオイ
さんと榮の間で一体何があったのか‥
わからないけど、こんな話をして
それを理由に妖怪を許して救えだ
なんてことを言いたいわけではない。
「許さなくていい、家族を目の
前で無残に殺されて恨んで当然だ。」
芦屋には意識を榮に乗っ取らせている間の
光景だけでなく、過去の記憶や抱えていた
思いまで伝わってきていたんだろうか。
そうでなくても、こういうところまで
気付けるのは芦屋のすごさだろうな。
恨みや憎しみ、だけじゃない。
きっとずっと抱えていた後悔。
妖怪が見える自分がもっと早く気づいて
いれば助けられたかもしれないのに‥
そんな榮の強い悲しみや後悔を背負って
人を守るためにひたすら妖怪を殺す選択を
この威光はし続けなければいけなかった。
芦屋が向けてくれた言葉にいろんな
感情が溢れたように涙を流していた。
妖怪を許すのも妖怪のために協力も
したくないけど、それ以上に自分の
家族のように二度と人間が妖怪の犠牲
になってほしくないから、榮は安倍さん
を救うために協力すると言ってくれた。
芦屋はすごいな、ほんと、すごいよ。
榮の想いを背負い続けた威光もここで
ようやく救われたのかもしれないね。

本当は安倍さんの怪我が治ってから
アオイさんの所へ行けたら良かったん
だけど、あまり時間の余裕はなさそう。
隠世姫の体調が不安定で一時的とはいえ
加護が消えて海樹の虫が街に入り込む事件
もあり、すぐに加護が復活したことで被害
はそう大きくはならなかったと思うけど
今後頻発しないとは言えず、少しでも早く
アオイさんを連れて帰る必要が出てきた。
三権神に報告を済ませると、翌日2人は
再びアオイさんのところへやってきた。
アオイさんを助けるためにはまず
寄生樹の薬を飲ませる必要があった。
体が巨体化してしまっている上全身に
世界樹の根が及んでいるかと使う薬は
3つ‥失敗すれば救える可能性がある
アオイさんを自らの手で殺すことに
なってしまうかもしれないんだから、
安倍さんだってきっと怖かったよね。
(寄生樹に取り憑かれてもなお
しぶとく生き延びたんだ。
アオイならきっと耐え抜ける…。)
そう信じることしかできなかった。
強力な睡眠薬を使って眠るアオイさんの
口を無理やりあけさせて薬を飲ませる。
なんとか薬を飲ませ終えた直後、
アオイさんは意識を取り戻して
寄生樹が燃える痛みに苦しみだす。
苦しみながらもそばにいた2人を敵と
みなしたのか安倍さんに襲いかかった。
「逃げて…安倍さん…!!」
苦しみながら‥芦屋が呼ぶ『あべの』
という名前にアオイさんは反応して、
一瞬動きを止めたのかもしれない。
安倍さんが「アオイ」と名を呼ぶと、
体中を燃やしながらもアオイさんは
安倍さんの名前を呼んで‥倒れた。

倒れたアオイさんの体は透け始める。
これは妖怪の死の前兆‥薬の効果に
アオイは耐えきれなかった、ここまで
衰弱したら助かる見込みはもう‥と
安倍さんは諦めてしまいそうになる。
でもそんな安倍さんを引っ張り上げて
前を向かせてくれたのは芦屋だった。
榮の威光を移植して寄生樹を封じれば
薬の効力も治まって助かるかもと。
本当にそれが可能なことなのか無駄
になるかもしれないしわからない。
それでもやれる限りのことはやろうと、
ここに芦屋がいてくれて本当に良かった。
安倍さんが威光で芦屋の中の榮を
呼び起こし、榮が威光の力でアオイ
さんに憑いた寄生樹を消そうとした。
寄生樹は治っていく、威光による
芦屋の肉体の消滅も起きていない、
あとはアオイさんの消えかけの体が
元に戻れば‥そう考えた時だった。
榮が‥限界に到達したのか意識を
手放してしまい納まりかけていた
寄生樹が襲いかかってきたのだ。
寄生樹は芦屋と安倍さんを飲み込んで
アオイさんと一緒に一つの塊になると
そこを根にして大きく木が伸びていく。
さすがに‥もうだめかもって思った。
寄生樹が伸びてきて飲み込まれた芦屋
の手に触れた‥そこにいたのは芦屋の
最後の記憶にあった父親の姿だった。
‥なんって優しい表情してるんだよ。
そこで何が起きたかよくわからなかった
けど彼が芦屋の手を掴んで、その時には
周りの寄生樹は消滅したように見えた。

何がどーなったのやら、な感じでは
あったけれど芦屋と安倍さんが目を
覚ますとそこには随分と小さな子猫。
えっと‥アオイさんだよね?
すごく縮んだけどアオイさんだ 笑
ちゃんと無事だ、元気そうだ。
長らく寄生樹に憑かれていた影響か
死にかけて妖力を消耗しすぎたせいか
随分と可愛らしい姿になったわね。
安倍さんが名前を呼ぶと、ぴくっと
反応して安倍さんの膝に飛び乗った。
安倍さんも泣いてしまいそうなくらい
安心したろうし嬉しかったろうけど、
2人の感動の再会に、アオイさんが
無事治ったのもあったし、一瞬だった
けど父親との再会もあったようだし‥
いろんなことでいっぱいの芦屋が隣で
必死に安倍さんとアオイさんの再会を
邪魔しないようにか静かに涙をこらえ
ながら震えていたのには少し和んだ 笑
‥ほんと、良かったね。
アオイさんお帰りなさい。
私も涙が溢れてしまいそうで、文字
を打ちながら視界がぼやけて困る 笑

アオイさんを連れ帰った物怪庵一行。
妖力の低下で言葉も話せないようだし
今の妖力はモジャよりも弱いらしく今
のままでは隠世姫の代わりは出来まい。
妖力が戻ってくれば徐々に記憶も
蘇ってくるし言葉も話せるように
なるだろうとのことだったんだけど、
話せないにしろ、記憶はある程度は
残ってるんじゃって気がしている。
名前を呼ばれて反応したり、安倍さんや
芦屋が抱きかかえずともしっかり自分の
意志で隠世姫達のもとへ駆け寄ったり。
真実は謎だけどそんな気が‥
そうならいいなと思った 笑
隠世に関する現状はまだ何も変わっては
いないんだけど、アオイさんが無事帰って
きたことで不安が消えて隠世姫は体調不良
を忘れるほど晴れやかな表情をしていた。
すぐに状況は変わらずとも
きっとここから好転していく。
さて、ここで思い出すのは2人を寄生樹
から救ってくれた黒髪の榮のことだった。
「…”威光”の容姿が生前 芦屋榮が
威光を使ったときの記憶の投影なら
俺達が知る限り一度だけ奉公人
時代に使っただろ?榮の命日…。」
芦屋が金髪の威光の方の記憶が一部
ないことと容姿の話をすると、安倍
さんはそんなことを言いだしたんだ。
確かにそうだった、奉公人になってから
威光で妖怪を殺すことはやめたろうけど
榮は最期に威光を使うことで消滅したんだ。
榮が消滅したあの時からずっとあの
威光だけはずっとアオイさんのそばに
いて、そのおかげで寄生樹に憑かれても
妖力を吸い付くされずに済んだみたい。
そして今回安倍さんと芦屋が無事で帰って
こられたのもあの威光が憑いていたからだ。
なんか‥本当に良かったな。あの時
威光が助けてくれたのは偶然なのかも
だけど、すごく温かい気持ちになった。
アオイさん‥記憶があるのかないのか
言葉の意味を理解してるのかしてない
のか何ともいえない感じだけども 笑
いいタイミングでお返事してくれる
ものだから実はいろいろ理解してるの
では‥とか考えてしまう私がいるよ 笑

今回の件の報奨金として物怪庵は
一千万怨を受け取ることになる。
安倍さんは受け取れないって言ったし
芦屋も最初は遠慮してたけど、立法の
借金完済という餌に釣られてしまい、
最終的には法律(ルール)だと言われ
超大金を受け取らされることに 笑
その結果、芦屋は抱えていた百万怨
の借金を無事完済することとなった。
これでまた元通り‥と思ったんだけど
アオイさんに芦屋の威光も渡したことで
少々困った変化が起きてしまっていた。
きっと芦屋は元々妖怪を見る素質の
ない普通の人間だったんだと思う。
威光があるおかげで、見えていた。
ここ最近は芦屋が学校に行ってる間に
安倍さんとモジャで依頼を済ませている
ことが多いらしく、芦屋はほとんど
安倍さんにもモジャにもヤヒコにも会う
機会が減っていたから気づくのが遅れた。
妖怪が、見えなくなっていた。
なぜか、モジャのことだけは見えていた。
でも物怪庵の躙口は見えていなくて‥
モジャのことが見えるのももしかしたら
残りわずかな時間だけなのかもしれない。
寂しいけど、奉公人は辞めるしかない
と芦屋は覚悟を決めていたようだった。
足を引っ張るだけの存在になる
前に辞めさせてほしいということと、
これまでの感謝の気持ちを伝える。
でも安倍さんは物怪庵には芦屋と
いう存在が必要なんだと思うように
変わっていたのかもしれないな。
自分から辞めると口にした芦屋に対して
了承しながらも籍は残しておくと言った。
「もし少しでもまた妖怪が見える
ようになったら戻って来て欲しい。」
言った後に照れくさかったのか非常に
複雑そうな顔をしていて笑ったけど 笑
「必ず戻ります。」
どれだけ先になっても、大人になって
それぞれ別の道を歩み始めていても。
この先のことはわからない。
でも‥いつかまた見えるように
なってくれたらいいと願った。
~ひとこと~
終わった、終わってしまった (泣)
ヤだ、嘘でしょ、まだ終わらないで‥
そんな気分でいっぱいです 笑
大好きな作品だったからこそ、
こんなにあっさり終わっちゃう
なんてなんかすごくつらいです。
アオイさんがどんな人物だったのか、
榮はアオイさんに会ってどんな経験を
したことで恨んでいた妖怪を助ける
物怪庵の奉公人になることにしたのか、
正直気になることだらけで終わりました。
芦屋に関しても、気持ちの強さなのかな、
モジャだけが見えるというのはお互いに
見たいし見えてほしいっていう気持ちが
強いからってのも多少はあるんだろう。
でもそのうち‥見えなくなるのかな、
また見えるようになってくれるのかな。
もっと彼らを見続けていたかったです。
終わってしまって、本当に悲しいです。
喪失感が、半端なすぎて困ります 笑
作者のワザワキリ先生いわく、目標に
していた成長点に芦屋と安倍さんが
到達したことでここを最終地点にと
終わりを作ってくださったようです。
寂しいし、この先もずっと見続けて
いたかったけど、これがこの物語。
妖怪との出会いと別れ、エンディングと
してはすごく切ない終わり方でしたが
きっと先生の伝えたい部分はしっかり
描ききってくれたんだろうと思います。
寂しいけど‥めっちゃ寂しいけど !! 笑
私のごちゃごちゃしたレビューでは
そんな先生の伝えたかったことも上手く
お伝えできていないかもしれませんが、
ほんの少しでも興味を持ってくれた方が
いたらこの最高の作品をぜひお手にとって
読んで楽しんで頂けたら嬉しいです。
それでは不機嫌なモノノケ庵の
紹介はここまでになります。
次は別の作品で、よかったら
またお付き合い下さい。